伝統ある米国胸部外科学会(略称AATS)のサテライト学会ともいえるこのMitral Conclaveは僧帽弁の外科治療を突っ込んで研究する会として4年前に発足し、早3回目となりました。
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私は代表のDavid Adams先生(写真右)のお誘いで初回から参加させて頂き、その都度刺激や知識をいただき、あるいは仲間との意見交換の中で貴重な経験を積み、楽しい時間を過ごして来ました。ここまで毎回発表し、今回は3つの発表で思わずちからが入ってしまいました。といってもポスター3つ、ただし1つはFeatured Abstractという優秀演題となり、日本発の研究が評価されてうれしく思いました。
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毎回会場はNew York市内のホテルが使われ、おかげでNew Yorkになじみができました。タイムズスクエアの賑わいやエンパイアステートビル、そして9・11で崩壊したあとついに再建なった世界貿易センタービルなどが近くにあり、世界をリードするミュージカルやオペラ、コンサートなど、文化の中心であることを実感します。
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学会では僧帽弁の手術治療についてさまざまな観点から発表と討論がなされました。
Adams先生の熱心なご性格からでしょうか、この2日間で僧帽弁のすべてが学べるようにという意気込みが感じられる構成で、高名な権威筋といえどもひとり8分の圧縮した濃い内容のプレゼンがぎっしりと詰まっており、それらが一段落したところで総合討論して理解を深めるという形でした。
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たとえば一日目最初のセッションでは我が恩師Tirone David先生の僧帽弁のExposure(つまり弁を出すためのアプローチ法)、David Adams先生の病変の評価、Francis Wells先生の逸脱の治し方、恩師Craig Miller先生の弁輪の治し方、今回のAATS会長Pedro Del Nido先生のクレフトその他の先天性病変の治し方、Robert Dion先生のSAM対策法、Ottavio Alferi先生の二次的MRの治し方、Gilles Dreyfus先生の評価と形成の完成、そして総合討論とおなじみの先生方の系統的連続講義で実によく練られたプログラムと感心しました。
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僧帽弁形成術を日ごろから多数こなしている私たちにとっては内容もおなじみのものが多いのですが、随所に新しい流れを感じて参考になりました。
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朝から晩まで12時間近く、よくまあこれだけ僧帽弁の話題があるものだと感心しながら、それでもまだ勉強したりない、まだまだ序の口といった感覚があり、この会は当分続きそうだと予感しました。
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私自身は次の3つの発表を行い、これまでの努力を皆様に問うてみました。
まず機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新術式である乳頭筋適正化術・PHO法の中期遠隔期成績。これはFeatured Abstractという優秀演題の一つに選ばれました。機能性僧帽弁閉鎖不全症の多くはこの方法で弁形成できる、長もちする、心臓外科医はもっと弁形成に取り組んで下さいという気持ちでお出ししました。
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今回のConclaveでも機能性僧帽弁閉鎖不全症は弁置換にしようとか、Mクリップという不完全な方法で逃げておこう、あるいはTMVRという低侵襲の弁置換でかわしておこうという空気が強く、もちろん手術できないほどの重症では良いと思いますが、手術で元気になれるものをなれなくしてしまう、そんなことのないようにと訴えたつもりです。
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もう一つの発表はHOCMつまり肥厚性閉塞性心筋症で僧帽弁閉鎖不全症を伴うものに対するモロー手術つまり異常心筋切除術の発展型をお示ししました。技術や道具の進歩で、従来は難しいとされた大動脈弁越しに心尖部まで自由に心筋切除ができることを示し、さらにMICSという小切開手術まで可能ならしめたことを発表しました。恩師David先生も賛同してくださり、うれしいことでした。もともとトロントで学んだ技術をMICSの方法などを加味して発展させただけに、思いいれのあるテーマだったのです。
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HOCMで発作を繰り返し、仕事や楽しみを奪われて失意の人生を送っておられる方々をこの方法でこれまで多数お助けしてきました。しかしまだまだ未治療で困っておられる患者さんは多いようです。ぜひそうした方々のお役に立ちたく思いました。
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今一題の発表はポートアクセス法でのMICS手術の展開についてです。僧帽弁形成術だけでなく、大動脈弁手術や三尖弁形成術、メイズ手術なども必要あらば併せて行い、MICSがより汎用性のある手術法になればと思います。まだまだ注意すべきこと、改良すべきこともありますが、かなり光が見えて来たように思います。
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こうした発表を見るひとは見て下さっており、ありがたく感じました。
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今回の会ではカテーテルで行う弁治療、いわゆるSHDインターベンションが着実に進歩しているという現実がより明らかになりました。Mクリップによる弁形成はまだまだ不十分な治療という弱点が否めませんし、TMVRつまり左小開胸にて心尖部からTAVIのようにして入れる、オフポンプでの弁置換もかなり盲点や弱点が多いと感じましたが、外科手術ができない場合などに有力な治療法になり、歓迎すべきことと思いました。
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またダビンチロボットによる僧帽弁形成術も通常医療として根付いていることも確認できました。日本では保険が効かず患者さんの負担が過重になることからまだ課題が多いですが、うまく使えば価値が出てくるものと思いました。
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大動脈弁関係でも熱い議論が多く交わされました。しかしカテーテルによるTAVRの話題になりがちで、外科医としてはちょっと退屈な場面もありました。治療の低侵襲化は時代の要請ですし、これから積極的にカテーテル治療を導入しながら、やはり外科手術しかないという治療を行える数少ないセンターのひとつになるのが正解ではないかと感じた次第です。
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ともあれ内容ぎっしりの二日間で、多くの仲間や先輩たちと語り合えて実りある時間が過ごせました。その間、留守を守って頂いた高の原中央病院かんさいハートセンターの皆様に感謝申し上げます。
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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