恒例になったこのHOCMフォーラムに今年も参加して参りました。
4回目の今回は慶応大学循環器内科の前川裕一郎先生が当番幹事で開催されました。
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学会が多数でき、それぞれ内容のある学術集会が開かれている昨今ですが、この会のようにHOCMに特化してまる一日、さまざまな角度から深く掘り下げることができる機会はそうありません。
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参加して有意義な一日だったと思います。私なりに感じたところをざっとお書きします。
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まず教育セッションとしてHOCM診断や評価のためのCTを榊原記念病院の歌野原祐子先生が、心エコーを東京大学の大門雅夫先生が、HCMへの治療デバイスとしてICDを榊原記念病院の井上完起先生が概説されました。
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私は前日夜まで大阪で仕事していたため、朝一番で出発してもこのセッションには間に合いませんでしたが良い内容であったと聞きました。
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それから症例発表が行われました。
日本医大の厚見先生は不安定な潜在的HOCMに対して複数の圧格差誘発試験により高度な圧格差を証明し、PTSMAで軽快した一例を報告されました。
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安静時には圧格差が見えなくても負荷をかけると変動して圧格差が生じるケースは私も経験があり負荷エコーの有用性を示すものと思います。変動型のほうが軽症とはいうものの、体を動かせない、仕事ができないというのは重症と言ってよく、しっかり治療するのが正しいと再認識しました。
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心臓血管研究所の嘉納先生は症状の管理に難渋し、最終的に外科治療を要したHOCM症例を報告されました。
中隔枝がちょうど良いところに存在しないときはアブレーションには無理があり、外科治療の適応のひとつになります。とくに乳頭筋異常を伴えばより外科が役に立ちます。これらを確認できた報告でした。
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仙台厚生病院の伊澤先生は事前の心臓CTが焼灼する中隔枝の決定に有用であったHOCMの一例を報告されました。左室のCTと冠動脈CTを併せて考えるとより正確な位置決めができ有用です。画像診断の進歩は素晴らしいと思いました。
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国立循環器病研究センターの天木先生は僧帽弁形成術後に発生した僧帽弁閉鎖不全症に対してアブレーションが効いたS字状中隔のケースを報告されました。
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僧帽弁形成術が増えた現在、こうした難症例をときおり経験します。術後はすっかり元気になって頂いてこそ弁形成ですので、私は術中にSAM予防策をより徹底して行うか、そうでなければモロー手術を同時施行するようにしています。参考になった報告でした。
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ランチョンセミナーでは日本医大の天野先生はLGE(ガドリニウム遅延造影)だけではない、HCMの造影CMRを解説されました。
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LGEは主に心筋の瘢痕を見ているためDCMなどで問題となる線維化は良く見えません。また心筋の壊れはじめの状態を見つけることも難しいです。この点、T1マッピングはびまん性線維化の評価ができ、そして造影後シネ画像で梗塞と閉塞の同時評価ができ、これらを従来の検査法に加えれば診断精度はより上がるわけです。今後の展開が楽しみになりました。
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午後のセッションのトップバッターとして榊原記念病院の高梨秀一郎先生がSeptal Reduction Therapyのお話をされました。
HOCMの外科治療を積極的に行っている施設は少数で、この手術を経験したことのない心臓外科医が多数おられます。そうした中でこの治療を定着させようというご努力は立派と感心しました。
診断の進歩や病態の理解が進み、左室中部閉塞型が増えたこともあり、最近はかつての経大動脈アプローチだけでなく経心尖部アプローチが増えているとのことでした。MayoクリニックのSchaff先生の報告以来、この方法が理解され、今後伸びるものと思いました。
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私はMICS技術を応用し、経大動脈弁で左室中部閉塞までは十分対処でき、その場合皮膚切開も小さく傷跡を見えにくくできるため、左室をなるべく傷つけないという方針で進めて来ました。しかし心尖部にも病変があるケースが増えているため、左室心尖部アプローチが役立つときには積極的に使おうと思いました。左室形成術で100例以上の経験蓄積があり、この経験で心尖部アプローチは大変やりやすいためこれからより重症にも対応できることを期待しています。
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なおこの心尖部肥大型HCMは従来知られていたよりも予後が悪く、今後の治療の進歩で救われる患者さんが増えるものと感じました。
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引き続いて共催セミナーがありました。
慶応大学の湯浅先生はエンドセリン受容体拮抗薬を用いたHCM治療の可能性について講演されました。ノーベル賞のiPS細胞のおかげでHCMの病態の理解が進み、現在この病気はサルコメア構造遺伝子に異常がある、サルコメア病であることがわかっています。これまでの薬物では特異的なものがないため成果も不十分です。エンドセリンのひとつであるET1にはETAとETBの2つのレセプターがあり、このうちETAのブロッカーを使うことで心筋の乱れが減ることが分かったとのことで、今後の展開が楽しみです。
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それからまた症例発表が続きました。
その中で小倉記念病院の林先生の心不全を呈した重症AS・大動脈弁狭窄症合併のHOCM症例が目につきました。
86歳とご高齢のためなるべく侵襲を下げたい、しかし治療が中途半端ではかえって不利、ASとHOCMを順々に治すか、その場合どちらを先にするか、あるいは外科手術で両方同時に治すか、さまざまな議論がありました。
まさにケースバイケースで、しかし安全第一で、後悔を残さない治療が大切と思いました。
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同様の症例報告が慶応大学の秋田先生からもありました。とくに悪性リンパ腫が見つかったとなると、それを進行させないよう、なるべくカテーテル治療を優先させるのが賢明と思いました。
またこうした狭窄が複数ある症例では通常のドップラー計測ができず、カテーテルでも微妙な位置決めが必要で必ずしも容易ではありません。心エコーではプラニメトリーで眼で見ての評価が必要となり、より熟練が必要かと感じました。
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これにも関連して、公立陶生病院の浅野先生が心エコーによる加速血流評価が有効であった複合型HOCMの一例を報告されました。
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ついで教育セッションとして、
1. HCM診療における遺伝子診断の役割(愛媛大学の大木元明義先生)
2. 失神を示すHCMの評価(榊原記念病院の高見澤格先生)
3. 日本におけるHCM登録研究(高知大学の北岡裕章先生)
の講演がありました。
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S字状中隔によるHOCMでは遺伝子変異が10%にしかないのに、心室中隔全体の肥厚では80%に遺伝子変異がある、しかし心尖部型では30%程度というのは興味深いデータでした。
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失神の鑑別では1.心室性や上室性不整脈、2.徐脈性不整脈、3.左室流出路閉塞、4.自律神経の障害、5.心筋虚血と拡張障害の相互作用、などを総合的に勘案する必要があり、また最近6か月以内の原因不明の失神では突然死の危険性があるというのは重要なメッセージと思います。HCMでも30%の患者さんに失神が起こるというのも同様です。
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最後に共催セミナーII パネルディスカッションが開催されました。
高山守正先生とともに不肖私も座長として仕事させて戴きました。
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HCMの年代別治療というテーマで、
まず大阪大学の小垣先生が小児領域におけるHCM重症例への対策の現状を概説されました。HCMの多くは特発性つまり原因不明で、1歳未満で診断がついた患者さんは予後が悪く、2歳までに心不全死することが多いのですが、学齢期に達しても心臓突然死という問題があること、治療では代謝性のHCMでは欠乏する酵素を補うことで改善できるものの、そうした治療ができないタイプでは有効な治療が難しく心移植に頼る傾向があること、などなどをお話されました。
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ついで榊原記念病院の内藤先生が40歳未満のHCMに対する心筋切除術を解説されました。40歳未満のケースでは左室中部閉塞型が多いためか左室内圧格差が低く僧帽弁閉鎖不全症の合併が少なく突然死のリスクが高いこと、手術では心尖部アプローチが増えていることなどを報告されました。
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榊原記念病院の高見澤先生は成人HCMを内科の立場から検討されました。35歳がターニングポイントで若くして診断された患者さんは心臓突然死が多く左室肥大や乳頭筋異常が多いことを示されました。心不全、不整脈などの突然死、脳梗塞などを予防するトータルマネジメントの重要性を強調されました。外科的治療は若年者、より高度な肥厚、併存心疾患や乳頭筋異常などがある場合に適応になりやすいとまとめられました。
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最後に慶応大学の前川先生は高齢者HCMの治療を内科の立場からお話されました。高齢者では1.Fraility、2.Comorbidity、3.Disabilityなどに注意して治療を考える必要があること、高齢者や担癌患者ではPTSMAになりやすい、80歳以上についてはこれからEBMを蓄積する必要があることなどを示されました。
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全体のパネルディスカッションの中でHCMはHOCMよりも心臓突然死が多く注意が必要であることも示されました。
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これまで何となく手つかずであったHCMやHOCMに対してきめ細かい治療戦略ができつつあることを実感しました。
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帰りの電車の都合で懇親会には参加できませんでしたが、内容のあるディスカッションが十分にできた素晴らしいフォーラムであったと思います。前川先生、高山先生、お疲れ様でした。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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