最終更新日 2020年2月27日
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◾️まず僧帽弁形成術のためのゴアテックス人工腱索は
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僧帽弁形成術の方法のひとつにゴアテックス糸をもちいた人工腱索を取り付ける方法があります。
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ゴアテックス糸をもちいる時に、その長さの調整に心臓外科医の初心者は苦労をします。
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著者も駆け出しのころはそうでした。
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心臓を止めてその中へ入って僧帽弁形成術を行うのですが、止まっているだけに動いている状態とは違うのです。
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人工腱索の長さを決めても、心臓が動けば違っていた、という苦い経験さえ昔ありました。
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しかし弁形成を数百例もやり、さまざまな調整法に慣れると、人工腱索の長さは一瞬で決められるようになります。
一方、あまり僧帽弁形成術をやっていない術者ではそれは難しい方法となるのです。
◾️初心者にも便利なループテクニック
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この問題に対してドイツ・ライプチヒ(当時)のFred Mohrモーア先生はループテクニックという方法を考案されました。
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これはまえもっておよその長さを決めておき、その長さのループをゴアテックス糸で造り、それを実際に乳頭筋と弁尖の間で使い、もし長すぎればループを横長に弁尖に縫い付けることで短くできるし、もし短すぎればもう一つループを弁尖に縫い付けてもとのループと連結すれば良いという便利な方法です。
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◾️ループテクニックの問題点
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1.人工腱索1本を立てるところに2本が入る
2.ひとつずつ設置するため時間がかかる
3.多数の人工腱索が必要な場合、たとえば6本必要な状況なら12本ものゴアテックス糸を付けることになる。異物は少ない方が安全なのに。
4.そもそも僧帽弁形成術とは少数の熟練したエキスパートが行うべきもので、多数の心臓外科医がそれぞれわずかな数の手術を行うのには適しない治療法である。なぜ初心者用の方法を考えるのか
などが指摘されています。
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◾️ループテクニックの問題を解決
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トロントのDavid先生もこれらに対して同感で、ループテクニック愛用の先生方と懇談の際に、なぜこんなかったるい方法を使うの、もっと良い方法があるでしょと言われて一同静かになったのを覚えています。
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私個人はこのループテクニックは不要と考えていますが、その良いところだけ活用させて頂いています。
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基本的にDavid先生の連続縫合式つまり1本のゴアテックス糸で僧帽弁弁尖と乳頭筋の間を必要なだけ何往復かし、長さを合せてから結紮し固定しています。その際に乳頭筋の先端に小さいループを造り、ここへその都度糸を通すことで乳頭筋先端部を守るようにしているのです(左図)。
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この改良によってたとえば前尖全部が逸脱し、弁形成ができないと言われた患者さんの形成が確実になりました。
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上写真の左側は連続ループテクニック施行前、右側は施行後です。弁尖の形がきれいになり、逆流がとまっています。
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前尖と後尖のかなりの部分が壊れているとき、あるいは三尖弁で前尖と中隔尖が壊れたようなケースでも無事弁形成が完遂できています。しかもそれが短時間ででき、あとの余裕につながるのです。
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◾️連続ループテクニック、さらなる展開
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連続縫合の良さを活かし、糸の長さを決めるときに仮結びしておいてこれを小さいブルドック鉗子で仮固定し(右図)、逆流試験で所見良好を確認してから本結紮しています。こうして高い再現性が達成でき、改良ループテクニックを若い先生方にも技術伝授しやすくなりました。
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しかもこうした複雑弁形成がMICSの、傷跡が見えにくい方法で、ほぼ全例できています(写真左下)。これは多くの患者さんたちにとって福音となっているようです。(患者さんからのお便りのページをご覧ください。)
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僧帽弁形成術の分野も日進月歩ですので、将来もっと良い方法がでればさらにそれへ移行するかもしれませんが、このループテクニックの連続縫合法で多数の患者さんの僧帽弁形成術をこれまで完遂できています。患者さんのお便りのページをご参照ください(お便り134その他)。すでにMitral Conclave始め海外でも発信を始めています。
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これからも多くの仲間たちと意見交換しながらより良いものを求めて行きたく思っています。
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若い心臓外科医の先生方で関心のある方はいちどご連絡ください
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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