世の中にはさまざまな原因で手術のベストタイミングを逃して、手術を受けることなくいのちを失う患者さんが少なくありません。いわゆるインオペ(手術は手遅れという意味)状態ですね。
下記の患者さんも危険な状態になってからご家族が私に相談を持って来られました。
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患者さんは以前に他病院で心臓手術を受けておられ、今回は三尖弁閉鎖不全症が高度になり、どうしても心不全から脱却できない状態でした。
心臓だけでなく腎臓や肝臓も悪く、さすがにすぐ手術とは行かない状態でした。
手術はできてもその後の体力が持ちそうにない、という状態でした。
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そこで時間をかけて、薬や点滴、リハビリなどで粘り強く回復を図りました。
ご家族は、あまりの長さにしびれを切らしていつ手術になるのですか、いつまで準備するのですか、とお叱りを何度か頂戴しました。
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しかしそこは信念を持って、手術に耐えられるからだ造りを目指しました。
3ヶ月もかかったでしょうか、ようやくその時が来ました。
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長年培って来た再手術のノウハウを結集して、できるだけ短時間で無駄のない手術を行いました。
三尖弁は破壊がひどく、体力のある患者さんなら自己心膜などを用いて複雑三尖弁形成術を完遂するところでしたが、この患者さんの場合は、70代のご年齢と病気が多いことから短時間で確実に仕上げることが何よりの親切と判断し、生体弁による弁置換を行いました。
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患者さんは間も無く回復され、長かった準備期間がうそのように元気になられ、手術前とは別人のように笑顔で話しされるようになり、退院して行かれました。
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あれから5年が経ち、またお便りをいただきました。暑中見舞いの短い文面に、患者さんのお気持ちが感じられ、うれしく思いました。
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心臓は大丈夫ですので、身体の傷んだところをしっかりと治し守りつつ、これからも前向きに、楽しくお過ごしください!
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************** 患者さんからのお便り *************
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暑中お見舞い申し上げます。
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御無沙汰をしておりますが、夏本番となりました。
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お元気でお過ごしの事と存じます。先生にハートセンターで長い間お世話に成りました。手術をして頂いてずいぶんになりますが、年老いたのか暑さが感じるように成るまでずいぶんかかりました。若いという事は素晴らしいと思います。
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先生も遠くに行かれて淋しく思います。
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今年は入院生活もなく、なんとか主人に助けて頂いて普通の生活に戻って参りました。それも先生のおかげだと感謝をいたしております。
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先生も患者様のためにも、ご家族のためにも、寝苦しい夜がつづいておりますが、どうか御体に気をつけて下さいませ。私も頑張ります。
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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