最終更新日 2024年12月31日
.
◾️心尖部肥大型心筋症とは?
.
まず肥大型心筋症(略称HCM)は左室壁が分厚くなる病気です。心臓としてのパワーは比較的保たれるためか、かつては予後の良い病気と言われていました。
.
私たちもどちらかと言えば、かつては左室壁が薄くなり左室が大きくなりすぎる拡張型心筋症DCMの手術にちからを入れて来ました。こちらの方が予後が悪いつまり早く亡くなると言われて来たからです。
.
しかし最近の研究の結果、HCMでも肥大が強く、左室の壁が極端に厚いタイプや左室の先端部つまり心尖部付近でも狭窄があるタイプつまり心尖部肥大型心筋症などでは予後が悪いことがわかってきました。この病気の場合、左室中ほどのところで狭窄が発生し心尖部が左室瘤になることもあり、HOCMともいえる一面があり、突然死が少なくないことがうなづけるわけです。
とくに失神発作や強い息切れなどの症状があるときは要注意です。突然死もかなりあるからです。
◾️心尖部肥大型心筋症の手術とは?
.
心尖部の異常心筋を切除する手術です。ただこれまでこの肥大型心筋症とくに心尖部型に対して異常心筋切除術ができる施設は少数です。
.
昔から手術(異常心筋を切除する手術でモロー手術と呼ばれます)が良く効くことが知られている閉塞性肥大型心筋症(HOCM)でさえそれがきちんとできる実績のある病院は少ないのですが、これが左室中部閉塞型HOCMになるとさらに少なくなり、心尖部肥大型心筋症ともなればほとんどないのが現状です。

.
私たちは100例を超える左室形成術(左室を心尖部などから切開して中へ入り修復します)や心室中隔穿孔に対する梗塞除外術(いわゆるDavid-Komeda手術と呼んで頂いている手術でやはり心尖部付近から左室に入ります)さらに左室緻密化障害に対する手術などで左室心尖部からのアプローチにはもっとも熟練しているチームのひとつです。
.
もちろん左室の出口付近(流出路)の狭窄はトロントのウィリアムズ先生の直伝のモロー手術で経験量が多く、大動脈弁越しに完全解除するようにしています。必要があれば心尖部と大動脈弁越しの両方から攻めるわけです。
それらの経験の蓄積を活かし、かつアメリカのメイヨクリニックなどの報告をもとにした心尖部肥大型心筋症HCMの手術も前向きに行っています。
.
◾️実際の事例では?
.
たとえば左図はこの病気の50代男性の術前MRI画像です。
.
心尖部(赤い矢印のところです)が異常心筋で埋もれて血液が入れなくなり、心不全が悪化していました。
右図は同じ患者さんの術後のMRI画像で、心尖部まで血液が流れ、きれいに駆出しています。
もはや普通の心臓で、患者さんはお元気で心不全も治り仕事復帰しておられます。
.
.
🔳SCO(収縮期閉塞腔型)とは?
.
SCO (systolic cavity obliteration)とはまだあまり使われていない言葉ですが、全米トップクラスの病院と言われるメイヨクリニックの畏友Hartzel Schaff先生がその手術を報告されてから、一部の専門家によって行われている病気です。心尖部肥大型HCMの亜型(サブタイプ)と言われており、収縮期に左室中部から心尖部まで左室腔が消失し、拡張期には小さいながら左室腔が存在する病気です。左室の拡張機能が低下し(わかりやすく言えば左室壁が硬くなり、血液を吸い上げるちからが落ちて肺がうっ血します)心不全になるのです。
.
そのためこの病気が進行すると、少し体を動かすだけで苦しくなったり夜も息切れで眠れなくなったりします。中には致死性不整脈が頻発し、有名な心臓センターでICD(植え込み型除細動器)しか方法がないと言われ、それでは根本治療とは程遠いため私の外来へ来られた方もおられます。アメリカでもこのタイプの病気はこれまで心移植しか手がないとされて来ただけに無理からぬことです。
.
しかし患者さんはこのままでは生きていけない、あるいはまともな生活ができない状態のため、私たちはSchaff先生と相談し、手術を行いました。これまで4名の患者さんはみな普通の生活や運動ができるようになり、致死性不整脈が出ていた患者さんは手術後には強い運動負荷をかけても全く不整脈が出なくなりました。
.
まだこの病気はあまり知られておらず、治療できる病院もほとんどないため、ガイドラインもなく、一例一例慎重に検討し、内科治療ではどうにもならなくなった患者さんに手術を行なっている段階です。患者さんたちは皆さん喜んでおられ、うれしく思っています。
.
◾️心尖部肥大型心筋症、どんな時に注意を?
.
肥大型心筋症とくに心尖部肥大型で失神や息切れなどの症状がある方々はとくにご注意下さい。近くの病院でこの病気には手術は無理ですとか、あまりに危険ですなどと言われたかた、あるいはどうして良いかわからなくなっている方々には一度ご相談いただければ幸いです。
一流の心臓病院で「不治の病」と言われて、途方に暮れて私の外来に来られ、手術で元気になられた患者さんが少なくありません。
.
私たちの考え方は、左室内に狭いところを残さない(圧格差を残さない)そしてなるべく強い肥大も解決する、それをさまざまな方法を駆使して実現するというものです。ここまでの安全性は緊急手術以外では死亡例はほとんどなく良好な結果を出しています。諦めるまえにご相談です。
.
心臓手術のご相談はこちら
患者さんからのお便りはこちら
.
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。