最終更新日 2021年1月3日
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◾️心尖部肥大型心筋症とは?
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まず肥大型心筋症(略称HCM)は左室壁が分厚くなる病気です。心臓としてのパワーは比較的保たれるためか、かつては予後の良い病気と言われていました。
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私たちもどちらかと言えば、かつては左室壁が薄くなり左室が大きくなりすぎる拡張型心筋症DCMの手術にちからを入れて来ました。こちらの方が予後が悪いつまり早く亡くなると言われて来たからです。
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しかし最近の研究の結果、HCMでも肥大が強く、左室の壁が極端に厚いタイプや左室の先端部つまり心尖部付近でも狭窄があるタイプつまり心尖部肥大型心筋症などでは予後が悪いことがわかってきました。この病気の場合、左室中ほどのところで狭窄が発生し心尖部が左室瘤になることもあり、HOCMともいえる一面があり、突然死が少なくないことがうなづけるわけです。
とくに失神発作や強い息切れなどの症状があるときは要注意です。突然死もかなりあるからです。
◾️心尖部肥大型心筋症の手術とは?
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心尖部の異常心筋を切除する手術です。ただこれまでこの肥大型心筋症とくに心尖部型に対して異常心筋切除術ができる施設は少数です。
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昔から手術(異常心筋を切除する手術でモロー手術と呼ばれます)が良く効くことが知られている閉塞性肥大型心筋症(HOCM)でさえそれがきちんとできる実績のある病院は少ないのですが、これが左室中部閉塞型HOCMになるとさらに少なくなり、心尖部肥大型心筋症ともなればほとんどないのが現状です。
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私たちは100例を超える左室形成術(左室を心尖部などから切開して中へ入り修復します)や心室中隔穿孔に対する梗塞除外術(いわゆるDavid-Komeda手術と呼んで頂いている手術でやはり心尖部付近から左室に入ります)さらに左室緻密化障害に対する手術などで左室心尖部からのアプローチにはもっとも熟練しているチームのひとつです。
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もちろん左室の出口付近(流出路)の狭窄はトロントのウィリアムズ先生の直伝のモロー手術で経験量が多く、大動脈弁越しに完全解除するようにしています。必要があれば心尖部と大動脈弁越しの両方から攻めるわけです。
それらの経験の蓄積を活かし、かつアメリカのメイヨクリニックなどの報告をもとにした心尖部肥大型心筋症HCMの手術も前向きに行っています。
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◾️実際の事例では?
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たとえば左図はこの病気の50代男性の術前MRI画像です。
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心尖部(赤い矢印のところです)が異常心筋で埋もれて血液が入れなくなり、心不全が悪化していました。
右図は同じ患者さんの術後のMRI画像で、心尖部まで血液が流れ、きれいに駆出しています。
もはや普通の心臓で、患者さんはお元気で心不全も治り仕事復帰しておられます。
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◾️心尖部肥大型心筋症、どんな時に注意を?
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この肥大型心筋症とくに心尖部肥大型で失神や息切れなどの症状がある方々はとくにご注意下さい。近くの病院でこの病気には手術は無理ですとか、あまりに危険ですなどと言われたかた、あるいはどうして良いかわからなくなっている方々には一度ご相談いただければ幸いです。
最近も超一流の心臓病病院で「不治の病」と言われて、途方に暮れて私の外来に来られ、手術で元気になられた患者さんがおられます。
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私たちの考え方は、左室内に狭いところを残さない(圧格差を残さない)そしてなるべく強い肥大も解決する、それをさまざまな方法を駆使して実現するというものです。ここまでの安全性は緊急手術以外では死亡例はほとんどなく良好な結果を出しています。諦めるまえにご相談です。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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