◼️ こどもの頃の僧帽弁手術のあと
医学の進歩で、昔は治療できなかった病気が今は治療できる、そうしたケースが年々増えています。
こどもの頃に僧帽弁閉鎖不全症などで手術を受けられた患者さんたちも、その手術のおかげで立派に元気になり成人になったとうケースがすでに多数あります。
しかしさすがに10年20年が経つと、その間の体の成長や心臓・弁の疲労もあって成人期にまた弁膜症が悪化することがあります。
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◼️ こども時代の僧帽弁形成術の利点と弱点
こどもの頃は体が小さく、将来の成長を考えると、僧帽弁形成術で威力を発揮する弁形成リングや腱索の代わりをする糸などが使えないことも一因です。リングも糸も成長できないからです。そのためこどもの時期の僧帽弁形成術は大人の弁形成と比較するとどうしても不完全になりがちなのです。
そういうことで成人に達した患者さんの僧帽弁などがまた悪化すると、そこで仕上げの弁形成手術が必要になることが多々あるのです。もとの弁の病気とこどもの時の手術、そしてそれ以後の長い間の変化などが加わって成人期の僧帽弁は複雑な形となり、そのための弁形成手術も複雑になりがちです。
そこでバーロー症候群やリウマチ性僧帽弁膜症などでの弁形成の経験や技術が役立つのです。
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◼️ たとえばケイ・リード手術の後では
たとえばこども時代に良く使われるKay-Reed手術(ケイ・リード手術)では逆流している付近の弁輪を閉鎖して逆流を減らします。リングなどを使わないためその後の弁の成長が見込めるというメリットがあります。ただし弁輪の一部を閉鎖するため弁が小さくなるという短所はあります。それらを考慮してなるべく長所が大きくなるような手術がされています。
そのKay-Reed手術のあと、10−30年経って、僧帽弁閉鎖不全症が悪化したときの弁形成手術の経験があります。弁尖つまりひらひらと開閉できる部分がある程度以上残っておれば、腱索はゴアテックス糸で取り替えることができますし、弁尖が多少不足していてもパッチで弁尖の根元部分を補えば良くなります。またすでに成長が止まっているため今度は弁形成リングも活用できます。そうしたノウハウを結集するとKay-Reed手術後の長年月経ったあとの弁形成は可能なことが多いように思います。
少なくともこども時代に人工弁になるよりも患者さんにとってのびのびと健康な生活が送りやすいように感じています。
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◼️ 弁形成と弁置換
弁形成のメリットは女性患者さんに特に大きいです。弁形成の後なら妊娠・出産もそれだけやりやすく、人生プランも立てやすくなるからです。男性患者さんの場合はスポーツや仕事に打ち込みやすいというメリットがあります。
成人期に弁がすっかり壊れてどうにもならないレベルであれば人工弁を入れる必要がでてきます。その場合でも患者さんの年齢や人生プラン、考え方に応じて機械弁と生体弁を選択し、その後の丁寧なフォローでできるだけ安全を確保するという事ができるでしょう。
ということでこども時代に僧帽弁手術を受けられ、現在成人期や青年期に達しておられる患者さんには専門医とよく相談し、その方に合った方針を立てることをお勧めします。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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