最終更新日 2023年2月15日
1.心尖部凍結式の左室形成術とは?
これまでの左室形成術の良いところを維持しながらも、はるかに短時間で確実にできる(つまり安全性が高い)新しい手術です
2.開発の経緯
その開発経緯からご説明します。
これまで左室形成術といえば死亡率の高い、危険な手術と考えられて来ました。
とくに2011年にアメリカで発表されたSTICH(スティッチ)試験で左室形成術は効果がないかのような結論を出されて世界中が驚きました。
しかしそのSTICH試験の内容を検討したところ、私たち専門家がやらないような軽症例が多く、つまり左室形成術が必要ない、したがって効果が上がらない患者さんを対象としていたことが判明しました。
これでは左室形成術は効果なしというとんでも結論になって当然ですね。
このことは数年前に来日したメイヨクリニックの畏友シャフ先生(世界的な心臓外科の名人です)も、つい先ごろ来日されたランキン先生(この先生も権威です)も嘆いておられたものです。
ランキン先生はSTICHの委員で研究方法がおかしいと主張したが聞き入れられなかったと言っておられました。
3.復活への動き
しかしその一方、左室形成のエキスパートがいるイタリアでも日本の一部有力施設でも左室形成術の成績は極めて良好で、STICH試験との落差をより感じるこの頃です。このような不完全試験のため多くの患者さんたちが左室形成術を受けることなく、死亡されている現実を見ると本当に心が痛みます。
嘆いてばかりいても仕方がないため、私たちは左室形成術をもっともっと改良し、もっともっと成績をあげるべく努力を重ねてきました。
その一つが1方向性ドール手術で、左室を理想的な形とサイズに、比較的短時間でまとめ上げることができ、死亡率がほぼゼロになりました。
4.最近の成果
さらに研究を進め、イタリアのカラフィオーレ先生や日本の杭ノ瀬先生、そして韓国の朴先生らの方法を改良し、これまでより格段に短時間で確実にできる左室形成術を日本胸部外科学会で発表しました。
これが表題の心尖部「凍結」式の左室形成術(Frozen-Apex SVR)なのです(右図)。(註:SVRとは左室形成術の略称です)
術前状態が悪かった中国からの患者さん、80代半ばで以前に左室破裂で修復を受けたがその後悪化して来院された方、大きな心筋梗塞の後心不全がどうにもならなくなった方、、、いずれも苦しいところからのスタートでしたが、新しいFrozen-Apex SVRで元気になられました。
何しろ左室形成そのものの操作は15分以内に完了するため、圧倒的に侵襲つまり患者さんの体への負担が軽いのです。なので7名の患者さんはこれら重症を含めて全員が元気になっておられるのです。
5.心尖部凍結型左室形成術が優れている根拠
この手術の根拠は2つあります。1つは心尖部はその存在が重要だがそれ自体の機能はそれほどではないということ、今一つは心尖部は左室のねじれ運動に必須であることです(左図)。
これまでの左室形成術は心尖部をどうしても壊したり、ゆがめたりする傾向がありました。新しい Frozen-Apex SVRでは心尖部を元の形に戻すため自然な力が発揮しやすくなるのです。
また左室の中心部には手をつけないため、失うものがないこと、さらに心尖部が小さくなって左室の中心部もそれに引き連れられて良いサイズと形になり、左室形成術で起こりがちな拡張機能不全が見られないのです。
そして3年以上経過観察しても良い状態が維持できることが確認されました。なので発表に踏み切ったのです。
参考:
いい心臓・いい人生第107号 アメリカでまた発表して参りました
いい心臓・いい人生100号 アメリカ胸部外科学会で発表することに
いい心臓・いい人生99号 第31回日本冠疾患学会にて。
いい心臓・いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
2018年秋にこの新しい左室形成術はアメリカのメジャージャーナルの表紙を飾ることができました(右図)。
より完成度を高めて世界の多くの患者さんたちにお役に立てるようにして行きたく思います。
→新しいデュアル形成術を知る
6.これからの展望
これから心不全特に拡張型心筋症や虚血性心筋症の患者さんたちのお役に立てればこれ以上の喜びはありません。
冠動脈ステントを何度も入れた患者さんや心筋梗塞を何度もあるいは大きな心筋梗塞を患われたかた、心臓が大きくなり動かないと言われたかた、あるいはカテーテル治療・Mクリップを受けても改善しない方、その他心不全でお困りの皆さん、まずは諦めずご相談です。相談して失うものはありません。
これまでも、「もう打つ手なし」とか「看取りにしましょう」と言われてからこの手術を受けて社会復帰された患者さんが増えています。もちろん治せないタイプの心不全もあります。まずは相談です。
循環器内科のPCIご専門の先生方におかれましては、先生方が長年PCIで守って来られた患者さんがいよいよ心不全とくに拡張型心筋症でどうにもならなくなれば、ご相談ください。お役に立てれば幸甚です。
一つお願い:患者さんやご家族の中には状態がうんと悪くなってから連絡して来られるというケースがよくあります。お気持ちはわかるのですが、すでに寝たきりとか集中治療室に入ってからでは、手術に耐えられる体力がなく、どうにもならないこともあるのです。できればまだ何とか歩けるうち、これが有利なタイミングです。
患者さんの声はこちら
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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