閉塞性肥大型心筋症(略称HOCM)はまだまだ手術が難しい病気です。特に心室中部閉塞型HOCMは、その経験のある病院が全国的に少なく、多くは不治の病として放置状態になっていると言われます。あるいは原因不明、打つ手なしの状態の方も少なくありません。
.
下記の患者さんも、以前はフルマラソンをこなすほどのスポーツレディであったのに最近は歩くことさえできなくなり、近くの総合病院で診断がつかず、見識ある開業医の先生から私の外来に紹介来院されました。
.
心エコーを見て、以前から指摘されていたという大動脈弁狭窄症(中等度、決して重症ではありません)に加えて心室中部閉塞型の肥大型心筋症が新たに見つかりました。見えていても経験がないため診断に至らなかったようです。さらに手術前の検査で冠動脈に中等度の狭窄が認められました。
.
この患者さんが重症心不全になられたのはこれら3つの心臓病の合わせ技のためですが、心室中部閉塞型HOCMが中心で、後の2つの心臓病はそう悪くないものと考えられました。もちろん手術の際には3つともきちんと治しておかないと、1−2年後にそれが悪化してまた手術などという患者さんに不利益が生じないように、全て一気に直しました。左室異常心筋切除と、大動脈弁置換術そして冠動脈バイパス術を施行しました。
.
患者さんはみるみる元気になられました。比較的遠方からお越しのためゆっくり入院を続け、十分な心臓リハビリをこなしてから退院いただきました。元のスポーツレディに徐々に戻りつつある状態のようです。
.
3つの心臓病を同時に治すという大きな手術を頑張って乗り越えて下さり感謝しています。以下はその患者さんからのお便りです。
.
*************************
.
米田先生
.
私は、昨年9月15日に手術をして頂いた****(69歳)です。
4年位前に、会社の健康診断で「心音に雑音が認められるので検査するように」との診断が出ました。
.
信じられませんでしたが、掛かりつけの医院に行き、心エコーの検査をしてもらいましたら、「大動脈弁狭窄症」と診断されました。「3年位は大丈夫だと思うが、症状が出たら早いよ」と言われました。半年に一度は検査に来る事、階段を上って息切れがしたり少しでもおかしいと思ったら必ず診察に来る事と言われました。
.
40歳からトライアスロンを始め、フルマラソン、それ以上の距離のマラソンやウォーキング大会に参加したり、60歳を過ぎて走力は落ちたものの昨年の6月初めにも舞鶴湾をまわるアップダウンのある大会に参加、60K位元気に歩きました。ところが次の週に家の近くの山に登ったところ、10歩も行かない内に息が切れ、いつもの倍くらいゆっくりの速さでしか登れませんでした。とうとう来たかしら?と思い、掛かりつけの医院に行きました。検査の結果「もう手術が必要」との事、「大阪に良い先生が見えるが行きますか?」と聞かれたので、私は即「行きますのでお願いします」と答えました」。
.
手術をして頂いてまた元気に走ったり歩いたりしたい!と言う前向きの気持ちしかありませんでした。
.
米田先生のところに行き、詳しく検査して頂くと、大動脈弁の他にも心筋や冠動脈に異常が見つかり、全て手術して頂くことになりました。正直、怖い気持ちもありましたが、手術室に入り「眠くなりますよ」と言われてから(ICUで)「小林さん手術が終わりましたよ」と言われるまで7時間も掛かったのですが私には「アッ」と言うまでした。術後は身体に沢山の管が入っていてとても苦しかったのですが、時間とともに楽になって行く、人間って凄いと思いました。3週間後には退院する事が出来、翌日から仕事に復帰できました。
.
他の病院では見逃されていたかもしれない症状まで見つけて頂き、手術して頂けたお蔭で今では元通りに何でもできるようになりました。
.
米田先生、「有難う」の言葉を何度言っても足りないくらいの感謝です。
本当に有難うございました。
.
先生を紹介してくださった春日井の灰本先生にも感謝です。そして灰本医院に検査に行くことになった私はとても幸せ者です。
灰本先生にも宜しくお伝えください。
.
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。