大動脈弁閉鎖不全症、、患者さんの想い出

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大動脈弁閉鎖不全症は放置すると次第に左室を壊し、拡張型心筋症になることが知られています。

昔、まだ卒業してまもない研修医・修練医のころ、天理よろづ相談所病院で患者さんAさんの受け持ちをしました。

Aさんは60代男性、大動脈弁閉鎖不全症で心機能がすでに大きく低下した方で大動脈弁置換術を受けて弁は良くなったものの心機能がもどらず、生きるのに精いっぱいというレベルにまで落ち込んでいたのです。駆出率でいえば10%台、つまり心移植レベルの低い心機能だったのです。

寒くなったり無理をするとすぐ心不全が悪化して入院して来られました。

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当時、つまり今から30年ほど前は今ほど良い薬や治療法がないためできる範囲でいろいろな治療を試みましたが、なかなか十分には効きません。

今なお忘れられないのはAさんがいつも仰っていた言葉です。「私の心臓はそれはもう弱く、シーツ一枚胸の上に乗ると息苦しくてたまらないんです」と。何とかしてあげたかったのですが、当時の医学では限界がありました。

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そんな状態でもAさんはよく頑張り、3年ほどの闘病生活ののち、この世を去られました。今ならもっと治せる、良い薬もたくさんあるし、そもそも手術のときにもっと良くできる、そんな気持ちでAさんのことを想い出します。

私の心不全治療への原点ともいえる患者さんです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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