Aさんは60代の男性です。長年のタバコのためもあって、肺が悪く、しかも心筋梗塞を起こして心臓とくに左室がうんと弱り、心不全のため来院されました。
このままでは永く生きられない、そういう状態でした。左室が壊れて大きくなり、かつ形がくずれたため虚血性僧帽弁閉鎖不全症という弁逆流まで合併し、心不全は一層重症化しておられました。
こうした問題を解決する心臓手術にこれまで取り組み、新しい手術法を開発して来ました。それをもちいてぜひAさんに元気になって頂こうと考えたのですが、肺が悪く、一秒率が40%と、手術できないレベルでした。
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しかしこのままではダメという状態になったため手術に踏み切りました。
手術では壊れた左室を左室形成術で治すことも考えたのですが、まだ壊れた部分にもまだ生きている心筋が結構あり、これは切除したり左室形成術を行うのは不利と判断できました。
そこで僧帽弁を私たちが開発した乳頭筋適正化手術(PHO法)で手直しつまり僧帽弁形成術しました。それから冠動脈バイパスを3本つけ、まだ生きている心筋がもっとパワーを回復できるようにしました。
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手術はスムースに終わりましたが、肺が悪いため、人工呼吸器からなかなか外れず、苦労しました。
せっかく人工呼吸器からはずれても、すぐ痰がつまり肺がひしゃげて無気肺になるためマスクで陽圧をかけようとしたのですが、患者さんがそんなのは要らないと受け容れてくれないため困りました。結局、気管切開を行うことで合意に達し、それで安定化を図り結局元気になられました。
その間は、肺が急に悪くなって酸素が不足し、血圧が低下するというエピソードが何度かあり、苦労しました。肺が良くなってからは問題なく元気になられました。
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Aさんは元気に退院して行かれました。その後しばらくは外来に通院しておられました。
しかし外来に来られなくなりしばらく時間が経ちました。Aさんがどうしておられるか、心配になり電話してみたところ、ご本人さまが出られ、しらばくは近くの病院に通院していたが、その担当の先生が異動され、どうしようかと思っていましたとのことでした。
さっそく私の外来に来ていただきました。Aさんの心臓はその後も回復を続け、心機能もまずまず良好、僧帽弁も逆流なしで良い状態でした。
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Aさんのようにベストとは言えない環境で暮らしている方は少なくありません。そうした方々にも治療の恩恵が届くよう、これから努力して行きたく思いました。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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