手術事例2-1上行大動脈は解離のため膨れかつ青くなっています(矢印)。
破裂寸前の状態でした。
急性大動脈解離の手術では心膜を開けるときの対応が重要で、
ある程度以上タンポナーデになっているケースではそっと開けて血圧が急激に上昇しないよう注意が必要です。
ショック状態や心停止なくここまで来れば救命率は極めて高くなります。
解離腔が見えます(矢印)。
急性大動脈解離に対しては約8年前まではGRFグルーを使用し、実際有用で便利な道具ですが、その後組織を壊死させるという報告が出されたため個人的には使用はケースバイケースにしています。
吻合は外膜を活用し強度と止血を達成するようにしています。
Davidの方法で、グルーもプレジェットも使わないテレスコープ法(望遠鏡のような構造で人工血管が内側に入る)でプロレーンの連続縫合で一気に終わります。循環停止時間15分程度であれば脳保護の点でも有利です。
症例2-3人工血管(矢印)を用いた遠位側吻合が完了しました。
循環再開しています。
適宜プレジェット付きプロレーンで吻合部を補強します。
テキサスのサフィー先生・コセリ先生のご推薦の方法です。この10年以上使って来ましたが、良い方法と思います。
日本では山本晋先生らも愛用しておられます。
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症例2-4 大動脈基部での吻合準備中。
解離がおよんでいるのが見えます(矢印)
この吻合も人工血管を内側におくテレスコープ法でとくにプレジェットを使いません。
なお大動脈基部に解離が及んでいる場合、冠動脈口とくに右冠動脈口の周囲をプレジェット付き糸で内外に補強(リベット打ちと呼んでいます)し、大動脈弁の3つの交連部も同様に補強し安全を期します。
GRFグルーは使わないか、使っても少量が良いと考えています。
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症例2-5 大動脈弁(矢印)に狭窄と病変があったため、
通常とは異なり弁置換することにしました。
このように弁の破壊が進んでいるケースでは、患者さんの年齢によっては生体弁の方が有利なことがよくあります。
内容をしっかり吟味して方針を決めることが大切です。
急性大動脈解離でも高齢者の症例が増え、こうしたケースがよく見られるようになりました。
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症例2-6 僧帽弁(矢印)を観察すると弁輪形成が必要な
状況でした。
弁葉がやや短縮し、弁輪が広がり気味であることも加わり、弁葉が閉じられなくなったようです。
術後の心不全を防止し立ちあがりを促進するために僧帽弁輪形成術は有用なことが多々あります。
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矢印は形成用リング。
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できるだけ患者さん自身の僧帽弁を活用するようにしています。
.工夫して左室内圧を高め、逆流試験にも合格です
症例2-8 大動脈弁置換(AVR)完了しました。
矢印は生体弁です。
なお弁尖が柔軟に保たれている場合であれば、大動脈弁形成術やDavid手術(自己弁温存式大動脈基部再建)を行います。
70歳以上の高齢者では自己弁と生体弁のどちらがその患者さんの長期予後に有利かを考慮して術式決定します。
この年齢であれば生体弁は確実に20年前後持つため有利なことが多いと思います。
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.冠動脈をしっかり再建しておくことは、安全上からも、術後の患者さんの生活の質(QOL)を守る上からも大切です。
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症例2-10 冠動脈バイパス手術の中枢側吻合が仕上がり、すべての操作が完了しました。
急性大動脈解離の手術の仕上がりです。
最初の写真と比べると、上行大動脈がかなり細く、正常のサイズに戻ったのが判ります
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患者さんは元気に回復されました。
急性大動脈解離では手術しない場合のリスクは極めて高い(発症2日間で50%近い患者さんが死亡される)ですが、手術のリスクはそれよりはるかに低く(術前心停止などがなければ100%近い救命率)、手術はリスクベネフィット比が高い治療法の一つです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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