患者さんは69歳男性、労作時易疲労感のため来院されました。
冠動脈対角枝#9にPCIの既往あり。
左室駆出率LVEFが14%(正常値は60%台)、左室拡張末期径LVDdが63mm、と心移植患者さん並みの弱った心臓でした。
右冠動脈#1が100%つまり閉塞、回旋枝#13が50%の狭窄。虚血性心筋症の所見とそうでない所見を併せもった患者さんです。
1.体外循環下に左室を減圧すると病変部(左室側壁)は凹みます。
左側が患者さんの頭側となります。
総合判断でバチスタ手術 (変法)の適応と考えました。
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2.心尖部(写真の下方)を温存し、左室側壁を切開し始めているところです。
切開部はその内側が白く瘢痕化・繊維化しています。
これなら切開そのものの左室への負担はほとんどありません。
安心してしっかりと左室を再建しようというわけです。
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僧帽弁や乳頭筋を守りつつ進めます。
左室を縮小しても乳頭筋や左室構造をこわすと、デメリットがメリットを上回り、患者さんは元気になれないと考えられます。
自然に逆らわない、神に従う、これも手術の基本ポリシーとして重要と思います。
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僧帽弁がすぐ近くに見えます(矢印)。
これに傷をつけないようにしながら新しい左室を造ります。
バチスタ手術 (変法)では左室心尖部が十分に温存されているのが見えます。
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5.左室の形や大きさを考えつつ切開部を縫合閉鎖し、再建が進んでいます。
より確実な止血を図るための工夫を加えています。
実際、左室縫合部からの出血に悩まされるというのは極めてまれです。
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6.僧帽弁輪(弁の付け根の部分、矢印)にリングを縫い付けて、弁を守り、かつ左室の機能を向上させるようにしています(文献をご参照下さい)。
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これらの工夫の組み合わせによりバチスタ手術の死亡率はゼロに近づきました。
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収縮末期像(左室が収縮して一番小さくなった瞬間の姿)です。
心不全の左室は拡張し丸くなりがちです。
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8.バチスタ手術(変法)後の左室です。同じ収縮末期の瞬間で比較しています。
術前より心臓が自然な細長にもどり心尖部(A)もきれいです。僧帽弁輪(M)もテント化(テザリング tethering)が取れて良くなりました。
心エコーでも左室駆出率は術前14%から術後36%に改善、左室拡張末期径も63mmから47mmまで縮小しました。
これなら毎日の生活はもちろん、仕事や楽しみもかなりの程度までできます。後はその改善なった心臓の力をさまざまな工夫でしっかりと守ることが重要です。それは外来で定期健診しながら生活やお薬によって行います。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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