患者さんは54歳男性。10年前に心筋梗塞を発症し、以後虚血性心筋症・心不全の治療を内科にて受けていました。
その後心不全が進行し、ショック状態(つまり血圧が十分出ない状態です)となり IABP(大動脈内バルン)使用下に緊急搬送されました。極めて危険な状態でした。
冠動脈は前下降枝(#6)と回旋枝(#13)が完全閉塞していました。
左室の拡大(LVDd左室拡張末期径69mm)と機能低下(駆出率10%台)、虚血性僧帽弁閉鎖不全症 4度、TR 4度あり。
心室中隔は虚血性心筋症ですが、左室側壁病変は冠動脈走行と合致せず非虚血性変化の合併も考えられました。
左室側壁が病変で薄くなり動かなくなっていたため、心尖部温存するバチスタ手術でまず左室側壁を切除・縮小しました。
心尖部(矢印)はきれいに温存されました。
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2.心室中隔の奥深いところから左室前壁までが昔の心筋梗塞でやられていたため、セーブ手術でパッチを用いて修復しています(矢印)。
パッチの奥(裏側)が新しい左室となります。
左室の形をゆがめないセーブ手術だからこそ、バチスタ手術との併用も問題なくできました。
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3.僧帽弁と左室基部を同時に形成するためにリングを僧帽弁輪に縫着(僧帽弁輪形成術MAP)します。
このケースでは柔軟なリングを使いました。
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4.冠動脈バイパスと三尖弁輪形成(TAP)を行って手術完成です。
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この方法をもっと低侵襲化(つまり患者さんの体への負担を軽くする)して、より多くの患者さんとくに全身状態の悪い方を救命すべく検討を続けています。
近々国内外の学会でも発表の予定です。
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収縮末期像
(左室が血液を送り出し一番小さくなった瞬間の姿)
です。
左室は丸くなり、
僧帽弁閉鎖不全症MRのため左房が造影されています。
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6.バチスタ手術+セーブ手術、術後の左室造影、収縮末期像です。
左室は小さくかつかなり細長くなり、左室機能は改善しました。
僧帽弁も形・逆流量とも著明に改善しました。
術後5年以上経ってもお元気にしておられます。
強い心不全でも、左室形成術は有効なことが多々あり、あきらめてはいけないという見本のようなケースです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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