患者さんは62歳女性。8年前から心不全出現し、精査にてサルコイドーシス心筋症(サルコイド心)の診断確定。以後内科治療にもかかわらず徐々に心拡大を来たしました。
来院時、心エコーにてLVDd左室拡張末期径72mm、左室駆出率23%、僧帽弁閉鎖不全症MR中等度、三尖弁閉鎖不全症TR中等度。左室には心室中隔基部・後側壁・前壁に病変あり、サルコイドーシスに特徴的な複雑な病気の状態でした。
1.体外循環下に心臓を右側へ脱転し、バチスタ手術 (変法、つまり心尖部温存)の方法で左室側壁を切開。
手前の心尖部は温存されています。
さらに僧帽弁が見えています(矢印)。
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2.バチスタ手術の左室切開口ごしに心室中隔最基部にある病変を
セーブ手術に準じた方法でパッチ(矢印)閉鎖しつつあるところです。
サルコイドーシスでは心臓の複数部位がやられることが少なくありません。心尖部側3分の2を縫合しました。
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大動脈弁ごしに縫合しています。
大動脈基部再建のデービッド手術の技術を応用して
大動脈弁輪を活用しました。
両室ペーシングするため房室ブロックは問題ありません。
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4.左室の基本構造を守るための腱索転位 translocationの僧帽弁形成術を行っているところです。
僧帽弁形成用のゴアテックス糸を用いて
自然構造と同様に各乳頭筋先端と僧帽弁輪前中央部を結びます。
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リングの一部が見えています
(矢印)。
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バチスタ手術 (変法)を仕上げています。
バチスタ手術の完成度も上がり、成功率は90%を超え、
他の左室形成術を併用したケースを除く、
バチスタ手術単独施行例では成功率100%を出しています。
リングの一部が見えています。
術後2年半経過して、患者さんはお元気に生活しておられます。
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左室の拡張と動きのわるい側壁や心室中隔がわかります。
サルコイドーシスでは心臓の複数の部位が侵されるのがわかります。
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左室が小さくなり、
動きも改善しています。
左室の大きさは
LVDdで術前72mm、術直後51mm、術後半年で57mmと改善・安定しました。
左室駆出率は術前23%、術直後30%、術後半年で33%と回復がつづいています。
この患者さんの報告はアメリカのトップジャーナルに論文として掲載され、
その表紙を飾るという栄誉を得ました。
右図の右下のシェーマがこの手術事例の方法を示します。
入院中、前向きにがんばって下さった患者さんのお姿を想い出します。
メモ: このようにサルコイド心では左室のさまざまな部位がやられるケースが多々あります。
場合によってはその中でとくに悪い部分を重点的に治したり、この患者さんのように全部なおしたり、ケースバイケースで柔軟に対応することが大切と考えています。
患者さんの心臓だけでなく年齢や体力も考慮します。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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