患者さんは53歳女性。
5年前に完全房室ブロックに対してペースメーカー植え込みを受けられました。
1年前からの心不全が急に悪化して来院されました。
来院時、心エコーにて左室拡張末期径LVDd58mm(拡張気味)、左室駆出率27%(通常の半分以下に低下)。
左室に著明な肉柱発達と心筋のひ薄化、心尖部に血栓(36x46mmと10x7mm)あり。
英語論文194番 J Thorac Cardiovasc Surg 2007;134:246-7. をご参照下さい、
この患者さんがこの左室緻密化障害に対する世界初の左室形成術になりました。
0.術前CT検査にて左室緻密化障害に特徴的な肉柱形成と薄い左室壁が認められます。
この肉柱の間に血栓ができ、それがもし血流に乗って飛べば脳梗塞やさまざまな塞栓を引き起こします。
さらにこの肉柱は外側の薄い左室壁を守れず、左室壁は次第に拡張し機能を失っていくと考えられます。
そのため手術ではこれらを食い止め、心機能をできるかぎり改善し、血栓や塞栓を予防することを目的とします。
通常とは違い、
左室緻密化障害に特徴的な肉柱が多数見えます。
肉柱の間にスポンジのような空間がある
のも見ることができます。
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血栓形成やそれによる塞栓(脳梗塞など)は
左室緻密化障害の特徴的問題ですので手術では血栓対策をできるだけ行います。
具体的には
血栓ができそうな肉柱部分をパッチでできるだけカバーするようにします。
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時間の節約を期して
心基部形成ののち心尖部にドール手術を試みました。
矢印はパッチを示します。
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貫壁性の糸を多数かけて実質上セーブ手術に切り替えました。
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これによって血液の漏れは止まり、安定した形になりました.
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縫合閉鎖しています。
確実に止血するための工夫をします。写真でフェルト(当て布)が真っ白になっており、止血が万全であることが判ります。
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6.僧帽弁輪形成術(MAP)を行い
左室基部の縮小と形成をかねています。
リングの一部が見えています(矢印)。
左室緻密化障害のもう一つの問題点は心不全ですので、それへの対策をできるだけ行います。
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7.三尖弁輪形成術を施行して心内操作を完了。
リングの一部が見えます。
このあと、卵円口開存PFOの閉鎖と両室ペーシングリードを装着しました。
実質上セーブ手術の術後4年が経過した現在も元気に生活しておられます。
先日(2010年3月)の患者さんとの懇談会にもご参加いただき、お元気なお顔を見せて頂きました。
左室心尖部に2つの血栓が見えます。
白く光った豆のようなところです。
これが外れてどこかへ飛べば大変なことになるところでした。
術前、左室は拡張し動きも悪かったです。
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左室心尖部にパッチの一部が見えます。
血栓はもうありません。当然ですが。
左室はLVDdは術前58mmが術後43mmへ、
駆出率は術前27%が術後32%へそれぞれ改善しました。
両室ペーシングにより心電図QRS波幅も正常に近づきました。
詳しくは論文194番をご参照下さい。
術後6年近く経ち、現在もお元気にしておられます。
米田正始の患者さんの会にもときどきお顔を出して下さいます。
今後、左室緻密化障害の患者さんの長期の生存率や血栓・塞栓とくに脳梗塞などの合併症を減らすためにお役に立つ可能性があり、さらに検討を進めています。
その後また左室緻密化障害の患者さんの手術と治療を経験し、お元気になられました。
しかしその次の患者さんは術前からの肺高血圧症・左室拡張機能障害が次第に進行し、心筋虚血が進行するタイプでのこの病気の難しさ、より早期の治療の重要性を感じています。
今後、啓蒙活動、早期の予防的治療を含めた総合治療を目指したくおもいます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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