患者さんは 57歳女性、大動脈炎症候群、大動脈基部拡張、大動脈弁閉鎖不全症AR、高血圧のため手術となりました。
手術前から大動脈炎に対して長年ステロイド剤を服用してこられました。
内科の先生のご尽力でステロイドは一日7.5mgまで減量されていました。
手術では上行大動脈のなかほどから基部まで拡張著明でした(写真左)。
ARのため左室も拡張し機能低下していました。
全体に組織はぜい弱で少しの伸展で裂ける傾向が見られました。
大動脈の炎症のための拡張とステロイド剤の影響が考えられました。
体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、離断しました。
大動脈弁は3尖でいずれも肥厚と短縮が見られました(写真左)。
大動脈炎症候群では大動脈壁が炎症で壊れ、弁そのものは壊れにくいのですが、
この患者さんでは長期の弁逆流のため二次的に弁も壊れていました。そこで
これらをすべて切除し基部置換(ベントール手術・ベンタール手術)することにしました。
大動脈基部は拡張し、右冠尖バルサルバ洞の冠動脈入口部と弁輪の間に石灰化が見られました(写真左)。
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まずバルサルバ洞付きダクロン人工血管30mm径の内側にATS機械弁27mmを縫着したものを作 り、
この人工血管を大動脈弁輪に縫着しました。
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弁輪が大動脈炎症候群で弱っている可能性を考え、大動脈の外からも糸をとおし、二重縫合とし一層の安全を図りました。
ここで左冠動脈入口部をボタン状にくりぬき、
上記のバルサルバ洞付き人工血管に
直径4mm程度の穴をあけて
縫合しました
(写真左)。
上記人工血管に直径5mmの穴をあけて縫合しました
(写真左)。
これによって、
大動脈壁は基部付近には事実上残さない形になり、
かつ冠動脈入口部付近のわずかな大動脈壁も
ほぼ人工血管で守られる形になりました。
146分で大動脈遮断を解除しました。
大動脈基部置換手術(ベンタール手術)完成です。
体外循環からの離脱はカテコラミンなしで容易に行えました(写真左)。
経食エコーにて大動脈弁や左室右室の機能良好、および左右冠動脈入口部の良い形態を確認しました。
術後は通常の基部置換よりは慎重に治療し概ね順調で、感染などのステロイド剤の副作用もなく、再開し3週間で元気に退院されました。
あれから3年以上が経ちますが、お元気に暮らしておられます。
大動脈炎の患者さんとくにステロイド服用中の患者さんは手術ができないと言われることがよくあるようですが、心臓外科の専門家の間では必ずしもそうではありません。まずは相談です。
さらに弁尖の破壊が軽ければ、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が可能です。やはり相談がたいせつです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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