事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症 2

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患者さんは67歳女性。

完全房室ブロックに対して以前に他院で永久ペースメーカー手術を受けられました。

当初は調子が良かったそうですが、その後、次第にペースメーカー三尖弁閉鎖不全症が発症・悪化し、心不全のため日常生活が制限され、この3か月は肝機能障害も発生し、このままでは肝不全の心配、いのちの心配があるため来院されました。三尖弁形成術はできませんと他病院の心臓外科で言われて、私たちのところへ来られました。

Photo患者さん・ご家族や内科の先生方と相談し、肝臓や全身の状態が保たれている間に手術することに決めました。

体外循環(人工心肺)に乗せ、心臓を拍動した状態のままで右房を切開しました(写真左)。

三尖弁を見ますと心室用のペースメーカーケーブルが三尖弁の一部に強く癒着し、腱索をも巻き込み、そのために三尖弁が動けず閉じることができなくなっていました(写真左下)。

三尖弁形成術といえば弁の付け根のところにリングを縫いつけるTAP三尖弁輪縫縮術が通常は行われるのですが、この患者さんの状況では通常のTAPでは逆流が取れないと判断しました。

Photo_2そこで私たちが開発した新しい三尖弁形成術を使いました。

ペースメーカーと三尖弁や腱索との癒着を丁寧にはがしました。

その上である程度自由に動けるようになったペースメーカーケーブルを弁の交連部に埋め込み、今後ケーブルが弁を圧迫しないようにしました。

その上でリングを用いて、三尖弁輪縫縮形成術を行い(写真斜め下左)、三尖弁の逆流がほぼ消失したことを確認しました。三尖弁形成術の完成です。

Photo_4なおペースメーカーケーブルはリングの外に位置し、今後も弁の動きの邪魔をしないように確 実を期しました。

写真下左では手前にあるケーブルが右心房用のもので三尖弁は通過しません。

右室用のケーブルは弁輪の外側に配置され、三尖弁もしっかり開閉します。これによって三尖弁の長期的な安定が図れます。

右心メイズ手術を冷凍凝固法を用いて行いました。右房を閉じて手術を終えました。

Photo_3術後経過は順調で、出血も少なく、心臓も正常リズムで良好な機能と状態で、術後2週間で元気に退院されました。

心配された肝臓もすでに良くなっています。

ペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全症は新しい三尖弁形成術で治せる病気です。

悩まずにご相談されることをお勧めします。

ペースメーカー友の会のご友人でこうした悩みをお持ちの方をご存じでしたら教えてあげてください。治せる病気で、治療法を知らずに命を落とすのは残念なことですから。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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