事例:超高齢者例 1

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患者さんは91歳女性、高度な大動脈弁狭窄症 AS、冠動脈一枝病変、左室肥大 のため手術となりました。心臓を治し元気になってもっといろんなことをやりたい、前向きに生きたいと希望されたため、91歳のご高齢であっても意義は大きいと考え手術をお引受けしました。

まずオフポンプバイパスで静脈グラフトを冠動脈に縫いつけました手術時の所見でも心臓はかなり張っていました。

左前下降枝LADは慢性閉塞していましたが、心筋保護の目的もありバイパス手術を併せ行うことにしました。

高齢で体格も小さく体力も余裕ないことから体外循環時間を節約するために、

まずオフポンプバイパスで大伏在静脈SVGをLADに吻合しました(写真左)。

大動脈弁は硬くてほとんど開かない状態でした体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は3尖で石灰化は弁尖から弁輪まで見られました(写真左)。

弁は硬くてピンセットで押しても引いてもほとんど開きませんでした。弁と石灰を摘除しました。

大動脈弁輪は狭小弁輪で、生体弁の最少サイズ19mmでもぎりぎりの状態でしたので工夫して弁が入りやすいようにしました。

工夫して狭いところに人工弁(生体弁)を無事縫いつけました。体力に余裕がある患者さんでしたら弁輪拡大などを併用するところですが、

この患者さんはそうする余裕もないため丁寧に入れ込みました。

心膜弁(生体弁)を縫着しました(写真左)。狭い大動脈基部に目一杯入った生体弁が見えます。

大動脈基部も狭いため大動脈切開部が裂けないように留意しつつ上行大動脈を2層に閉じました。

Cabg_2上記SVGグラフトの中枢側吻合(写真左)を行ったのち、78分で大動脈遮断を解除しました。

体外循環を容易に離脱しました。カテコラミンも不要でした。

経食エコーにて良好な人工弁状態と左室機能を確認しました。ドップラーにてSVGグラフトの好ましい拡張期フローパタンを確認しました。

術翌朝抜管しましたが、さすがにご高齢のためその後誤嚥(食べ物などを誤ってのどに詰めることです)があり、しばし呼吸管理ののち元気に回復されました。

高齢化社会のなかで心臓病患者さんも高齢化が見られます。大動脈弁狭窄症や冠動脈疾患はじめ多くの心疾患では超高齢者でも手術(弁形成や弁置換、オフポンプバイパス手術など)によって元気になられ、予後だけでなくQOLの改善も目覚ましいため手術適応になることが多くなりました。

とくにこの患者さんのように高度な大動脈弁狭窄症では手術までに突然死されることも稀でなく、きめ細かい注意とともに早目のコンサルトが勧められます。治せる病気で命を落とすのはもったいないと思います。

またあまりご高齢の方に心臓手術などしてもお金の無駄とする考え方があるのも事実です。しかし患者さんがまだまだ有意義に生きておられ、そしてもっと生きたいと希望されれば、あるいはご家族がそれを望んでおられるなら、私は手術の意義があると信じています。

年寄だから見捨てるという社会は身体障害者や低所得層といった社会的弱者を切り捨てる社会につながる恐れがあります。それは許してはならないと思うのです。

世間では医療安全管理ということでこうした患者さんたちがハイリスク例として手術を断られることが増えているようですが、熟練チームなら手術を安全に乗り切れる可能性が高くその後も何年も元気に生きる可能性のある方を断ることが医療安全と言えるかどうか、疑問を感じます。断られた患者さんたちの予後は極めて悪いからです。真の医療安全を皆で考えるときが来ていると思います

メモ1.こうした努力が雑誌・文芸春秋に紹介されました。生きるとは、生きたい気持ちとは何かということを皆で考えることが高齢化社会では大切と思います。メディアのページからご覧ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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