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■バルサルバ洞瘤とは
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大動脈の根元の部分(心臓に近いところ)のポケット状に膨らんだ部分(左図で「バ洞」と示します)がバルサルバ洞です。
これが瘤(こぶ)状に拡張したものがバルサルバ洞瘤です。
一番多い右冠動脈洞のバルサルバ洞瘤は通常右室に破れ、次に多い無冠動脈洞のバルサルバ洞瘤は右房に破裂します。また心臓の外側に破裂することもあります(これは最も危険です)。
診断は心エコーやCTで容易につきます。
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■瘤が破れたら、、、
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破裂口が大きいと胸痛や呼吸困難、心不全が急に出現します。外側に破れる場合は命に関わることが多いです。
その場合は緊急手術が必要なケースもあります(心臓手術事例:バルサルバ洞の再破裂例)。
手術では体外循環下に破裂口を直接またはパッチで閉鎖し、必要に応じて大動脈弁の形成などを行います。
またそれ以外の病気(心室中隔欠損症など)が合併している場合はそれらも併せて修復します。
外側に破れた場合は緊急手術も間に合わないことが多く、前もって検診などで見つけ、治して置くのが一番です。
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■手術の問題点・課題は
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手術のリスクは状態が落ち着いているときの手術であればたとえ大動脈弁の形成や置換が必要なケースでもそう高いリスクではありません。
年齢や他の内臓疾患にもよりますが、1-2%以内のことが多いです。
ただし大動脈弁形成術の豊富な経験をもっているチームは少なく、またバルサルバ洞瘤そのものの手術経験はもちろん、大動脈基部再建術のノウハウをあまりもっていないチームではきちんとした再建・形成手術が困難になりがちです。
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そのため他で手術を受け、バルサルバ洞瘤が再破裂してから私たちのところへ来られたというケースが複数あります。いずれもバルサルバ洞の弱い組織ではなく心臓の基本骨格を活かした再建手術できれいに治っておられます。この手術は国際学会などでも発表し評価を受けました。すでに術後10年を超えている患者さんも6名に達しましたが全員、破裂部はきれいに閉じた状態で安定しておられ、心不全なくお元気です。
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おなじバルサルバ洞瘤の破裂でも、すでにショック状態で人工呼吸器に長く乗り、肺炎を併発したり他臓器にも障害が起こり、となればリスクは上がります。また瘤が心臓の外側に破れる場合は手術室にたどり着くまでに死亡されることも多く、厳しいです。
早目のご相談が患者さんにとって安全で有利な展開に結びつきます。
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■結合組織疾患の患者さんの場合は
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なおマルファン症候群や大動脈二尖弁その他の患者さんで大動脈基部が拡張し、とくにバルサルバ洞が瘤化するという意味でのバルサルバ洞瘤が近年は増えました。
この場合は破裂すると心不全ではなく突然死になってしまうため要注意です。
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このタイプのバルサルバ洞瘤は必ずしも先天性心疾患ではありませんが。
この場合、瘤が破裂するまでに手術で治すことが望ましく、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が理想的です。
弁尖つまり弁の可動部分以外をすべて安定した人工血管で取り換えるわけです。
いったん手術できれいな形が確保できれば、これによって長年ワーファリンなしの生活が期待できます。
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また若い患者さんが多いため、創のちいさい、MICS手術(ミックス手術、低侵襲心臓手術)を行っています。手術後のこころの負担を軽くするのに役立っているようです。
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◾️患者さん自身の弁がひどく壊れている場合は
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自己弁がひどく壊れてしまっている場合はベントール手術が適応となります。
大動脈の基部や弁をすべて代えて、病気を根治してしまうわけです。
年齢や患者さんのライフスタイル、ご希望などに応じて機械弁と生体弁を使い分けます。
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しかしそれはやむを得ない場合のはなしで、極力、患者さんご自身の弁にこだわる事を基本方針としています。
いずれにせよ、バルサルバ洞瘤は早期発見と的確な治療が大切な病気です。
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◆ニュース(2016.9.)
バルサルバ洞破裂に対する手術は世界的にも再発や遺残が少なくなく、課題になっていました。
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その原因は、破裂した組織の近辺にある組織もまた脆弱で、せっかくパッチなどを縫い付けて修復しても、その付け根のところで組織が裂けるところにありました。下記の患者さんの想い出のコーナーをご参照ください。
この問題を解決する新術式を発表いたしました。心臓外科では世界のトップジャーナルである Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌の Surgical Techniqueのところです。右図はその抜粋です。
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米田正始の英語論文の264番です。解説をつけたビデオも付いています。若い先生方のご参考になれば幸いです。
この新術式ではしっかりした組織を用いて修復するため、今後、治療成績の改善が期待されます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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