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◾️左室緻密化障害とは?
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左室緻密化障害 という病気は生まれたときからの病気で、心筋が緻密な状態に育たないため隙間が多く、そこで血栓が発生して脳梗塞などを起したり、心臓の力が出ずに心不全になるという大きな問題があります。それが悪化して拡張型心筋症になることがしばしばあります。
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この病気は基礎的研究やエコーの診断精度の向上などのおかげで比較的近年知られるようになったものです。
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◾️左室緻密化障害の怖いところは?
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この病気の患者さんの多くはこども時代や青年期に亡くなられ、比較的軽症の患者さんが成人に達し、症状が強くなったところで初めて診断をつけられることもあるようです。
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そもそも本来スクラムを組んで助け合うべき心筋が柱状にばらばらになっている状態ですから、心筋への血液供給も本来のように四方八方から送られてくるべきものが、柱の上下だけからしか来ないため、虚血になりやすく、年齢が上がるにつれて重症化すると考えています。
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実際、左室緻密化障害の術中に左室内を見ると、内側の肉柱ほど、それも血液供給がもっとも少ない柱の中ほどの部位ほどやせ細り、瘢痕・線維化している姿をいつも目にします。
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たとえ冠動脈が正常でも基本的に虚血性心筋症への道をたどっているという一面があるのです。
長い間には心内膜側の心筋虚血が進行し、線維化などが起これば拡張機能障害(心室が硬くなって広がるべきタイミングで広がらない)や肺高血圧症が進むこともあります。
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◾️もう一つの怖いこと
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また異常な心筋が左室内を狭くして、左室が十分な血液を送れない状態になることもあります。
それ以上に左室壁が薄い形となって、そこに大きな張力がかかり、左室がその張力に負けて拡張して崩れて行くことが問題です。
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こうした状態から、左室緻密化障害の診断時には心不全や、左室内血栓による脳梗塞を発症しておられることが少なくないのです。
左室内に血栓ができてしまうと、それがもし外れれば右図の頸動脈ごしに脳動脈へ入り込めば脳梗塞になってしまいます。
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◾️ではどう治療すれば良いの?
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私たちはこれらを考慮した左室形成術を行いアメリカのジャーナルで 報告しました。
左室緻密化障害に対する左室形成術としては世界初のメジャージャーナル報告とのことで、血栓・塞栓と心不全の両方を予防するよう工夫しています。
左室緻密化障害への世界初の手術成功事例、英語論文194番)。
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さらに経験を重ねて患者さん達の予後改善に努めています。 事例 左室緻密化障害 2
今後この病気の予後の改善に役立てればと念じて努力しています。
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治療では予防や安定化 が何より大切です。心不全が悪化するまでにベータ遮断剤やACE阻害剤・ARBなどや利尿剤をもちい、くわえて左室内血栓ができないようワーファリンやDOACというお薬などを使って患者さんの健康をできるだけ守ります。私は上記の理由から冠動脈拡張剤も併せて使うようにしています。
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それだけでは足りないときや、僧帽弁閉鎖不全症が合併すれば外科手術が適応になることがあるわけです。
上記のような左室形成術や、僧帽弁形成術、メイズ手術などが役に立つことがあります。
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また近年成果を上げている心尖部凍結型左室形成術は熟練心臓外科医が行うため短時間ででき、今後の成績改善が期待されます。実際この左室緻密化障害で心不全であった70代女性にこの手術を施行し、手術前は横になれない起座呼吸という重症心不全であったのが、手術後は普通に自転車で20分のところまで買い物に行く生活を取り戻すほどに回復されました。これからより多くの患者さんのお役に立ちたいものです。
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メモ: 現時点では左室緻密化障害に対する私たちの左室形成術や僧帽弁形成術は心不全とくに左室拡張機能不全の治療や予防、そして血栓・塞栓したがって脳梗塞などの「予防」という、どちらかといえば与えられたものを上手く活用するという守りの意味合いが強いと思います。
将来的には再生医学の方法をもちいて、左室のスポンジ状の部位に血管新生や心筋再生を図り、ミクロレベルの心筋虚血を軽減することで心臓のさらなるパワーアップと長期安定を図れればと思います。いわば攻めの姿勢ですね。
これまでのデータでは左室緻密化障害には胎児心筋細胞が移植できれば改善に役立ちそうに思えるのですが、倫理上の問題からなかなか実現は遠そうです。それよりもiPS細胞(写真左)の安全性が確立されればそこから胎児心筋細胞レベルのものを誘導し、これを移植すれば大変好ましいのではないかと考えています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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