最終更新日 2020年3月11日
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◾️心室中隔穿孔とは?
心室中隔穿孔(VSP)とは心筋梗塞のあと、左室と右室を隔てる心室中隔に穴が開く病気で、そのままでは多くの患者さんが短時間で死亡に至る、重篤な病気です。
かつてはこの病気のために心臓手術しない場合はもちろん、たとえやっても大半の患者さんが亡くなっていました。
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◾️1980年代、新しい手術を開発
この心室中隔穿孔 VSPに対して私たち が1980年代の終わりごろ、Tirone David先生のご指導のもと、トロントから発表した術式 (心筋梗塞部除外法 (exclusion法) 、虚血性心疾患・手術事例7 )が世界中で用いられており、本家本元 の誇りをもってこの原法をさらに改良して優れた成績を上げています。
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上左図はオリジナル術式を発表した論文の図を日本語仕様にしたものです。(英語論文#14をご参照)
以下はその後さらにわかりやすく描かれた手術画像です。Brian Buxton先生の教科書 Ischemic Heart Disease Surgical Managementからの引用です。
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この心筋梗塞部除外法の特徴は、心筋梗塞で開いた穴を閉じに行って組織が裂けてかえって悪化したという昔の経験を活かし、心筋梗塞を遠巻きにカバーし、結果として穴(穿孔部)を塞ぐようにしたことです。
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この方法を当時の恩師の名前と一緒に Komeda-David法あるいは
David-Komeda法と呼んでくださる方が多いのは光栄なことです。
右図がその模式図です。
心筋梗塞部を避けて、VSP穴には触らず、結果的に穴を閉鎖するわけです。
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◾️2000年代に改良型Exclusion(梗塞部除外)手術
現在パッチの材質や形を工夫し、パッチの縫合線に力がかからないよう、左図のようにサイズに余裕のあるパッチをデザインしています。
毒性のあるGRF糊をできるだけ使わず、また2枚目のパッ チを弁状に活用してより確実に穴をふさぐようにしています。
2枚目のパッチは心筋には縫い付けないのがポイントです。時間もかからず、役に立ちます。
これらの工夫によって弱い心筋を守りつつ修復することが大切と考えています。
今後のさらなる展開が期待される領域です。
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さらに内科の先生方のご尽力による心カテーテル治療(PCI)の進歩を受けて、心筋梗塞のあと早い時期に冠動脈の流れが取り戻せたケースでは左室の損傷が軽く、心室中隔に穴だけが開いているというケースも見られるようになりました。
その場合は患者さんの状況に応じて右室経由で穴だけを確実に閉じるタイプの修復も行っています。
右図のように右室前壁を小さく切開し、ここから心室中隔穿孔を見つけ、その穴越しにパッチを左室へ入れて、右室側のパッチと合わせてサンドイッチ状にして穴を閉鎖します。いわゆる右室からアプローチする磯田先生の二枚パッチ法(サンドイッチ法)ですね。
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その場合でも、梗塞をできるだけ除外するという基本コンセプトはできる限り守るようにしています。
これは数年まえの日本冠疾患学会で座長コメントの中でお示しした方法です。
穴だけ閉じれば良くなるという患者さんもありますが、そうでないケースが多いからです。
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◾️その後の流れは
最近の流れとして、手術患者さんの高齢化と重症化がみられます。かつては50代60代の方が多かったのですが、このところは80代の患者さんが中心です。それだけ体力も低下していますから注意が必要です。
また虚血性心筋症などに合併するVSP例も散見されるようになりました。もともと心機能が低下し重症ですから一段と丁寧かつ迅速に手術を進めることが大切です。(手術事例)
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こうした方法を次世代に伝えるべく、ウェットラボや教科書・講演その他の方法で、この手術を若い先生方に指導するようにしています。(記事)
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◾️この病気の注意点
心室中隔穿孔の治療やオペでは迅速あるいは的確なタイミングが大切です。
患者さんはあっと言う間に状態が悪くなります。
.開業医の先生方や内科・循環器内科の先生方のご協力を得て、タイミングを逃すことなく早期治療することでより治療成績を改善したいものです。
心筋梗塞から1か月以内の患者さんが突然心不全になり、それまで聞こえなかった心雑音が聞こえるのであればこの心室中隔穿孔か虚血性僧帽弁閉鎖不全症の疑いがあります。いずれも急きょ心臓外科へお送りいただくことが救命につながります。
治療によってお元気になられた患者さんやご家族が喜んで下さるのがうれしいのはもちろんですが、平素お世話になっている循環器内科の先生方にこうしたケースで恩返しができるのは、二重の喜びです。
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◾️そして梗塞除外法は完成型へ
心室中隔穿孔(VSPまたはVSR)に対する心筋梗塞部除外術(いわゆるDavid-Komeda法)を世界に先駆けて発表し、この病気の治療成績を改善してから23年が経ちました。
その間、上記のように着実に術式を改良し、より確実に、より心機能を守るべく努力して参りました。さまざまなデータをもとにして、研究・検討を続けて来ました。
このたび、この手術法をよりやりやすく、また確実に行えるべく改良した新術式を発表しました。心臓外科では世界のトップジャーナルと言われる Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌の Surgical Techniqueのところで公表されました。右図はその抜粋です。
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詳細な解説をつけたビデオもついています。若い先生方にも執刀出来ることが確認できました。この新術式で若い先生方にもより確実にVSPを治せるようになり、成果が上がっています。是非ご覧ください。
米田正始・英語論文の 266番です。→この論文を読む (注:原本はカラーでビデオ付きですので、そちらもご参照ください)
◼️今後の流れ
2019年の米国胸部外科学会AATSにてこの心室中隔穿孔VSPの講演をしました。
その際のディスカッションの中でジョンスホプキンス大学の畏友Conte先生は、VSPの手術成績は発症3週間は悪い(手術死亡率は発症当日で90%なのが21日目では10%と)ため補助循環とくにインペラやPCPSで全身を守りつつ心筋が安定するのを待ち、それからゆうゆうと左室から穴を閉じる試みをしているとのことでした。
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彼らは肺移植の術前患者さんをこうして補助循環で守ることに慣れているので、こうした試みにつながったとのことでした。補助循環も上半身のカニュラ(管くだ)を使えば、歩けるためリハビリを続行でき食事もできるため安全に貢献するとのことでした。
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新時代の補助循環の恩恵を十分に使いつつ、手術成績がさらに改善するのではないかと賛同しました。
そうなれば壊れた左室をしっかりと修復するExclusion除外法は一段と威力を発揮するでしょう。
これからの展開が楽しみです。
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メモ1: 急性心筋梗塞直後は心臓や心筋も不安定で、とくに梗塞部やその付近の心筋は大変弱い状態です。
押せばグジュッと裂けるような弱さがあります。
そのため心室中隔穿孔などの心筋梗塞直後の手術は1-2日でも3-4日でも時間をおけば縫いやすくはなります。
ただし心不全が強い状態で何日か待てばその間に肺炎を併発したり腎臓や肝臓がやられてしまうこともあり、結局なるべく早くという方向で努力して来たのですが、上記の補助循環のおかげでこれからは治療の流れが変わる予感がします。
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メモ2: 心室中隔穿孔の患者さんは心筋梗塞のあと数時間から数日後に急に穿孔が起こることが多く、急に血圧が下がったり息苦しくなったりします。
聴診であらたな心雑音(全収縮期雑音)が聴こえれば直ちに心エコーを撮って確認します。
心室中隔穿孔があれば左室から右室へ血流(シャント血流)が見られます。
これで診断が確定し、通常はただちにIABPという補助のポンプを入れて開始します。それによって心臓と全身がしばし守られます。
それと同時に心臓外科医と相談し、手術の検討を速やかに行います。これらによって患者さんが救命できる確率を上げることができます。
短時間で的確な処置+適切な心臓外科医を選ぶこと、これで 有利に運びます。
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心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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