虚血性僧帽弁閉鎖不全症または機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する腱索転位法(トランスロケーション法)による僧帽弁形成術
この新しい僧帽弁形成術は僧帽弁の自然構造(二次腱索と言います)を温存して左室機能を守りながら、僧帽弁前尖の変形(テント化と呼びます)を治す方法です。
アメリカの代表的ジャーナル(Journal of Thoracic Cardiovascular Surgery誌)に2007年に初めて掲載されました(英語論文187をご参照下さい)。
その続編が、同じジャーナル2008年10月号の表紙にも採用していただき、今後さらに患者さんのお役に立てればと念じています。
当初は僧帽弁前尖のテント化(左室側に引っ張られて閉じにくくなること)を治すために開発しましたが、後尖のテント化にもある程度有効であることがわかりました。
自然の構造を温存することの意義を感じます。
この腱索転位術(トランスロケーション法)を発表し始めた2005年ごろは日本の学会でも「難しすぎる」「理解しづらい」「だから普及しにくいだろう」といわれたものでした。
しかしその後この基本コンセプトつまり二次腱索を前方へつり上げるという考えはその後さまざまな工夫、改良とともに活用して頂けるまでに発展しています。
この腱索転位術(トランスロケーション法)を育て発展させて頂いた北海道大学の松井喜郎先生、京都府立医大の夜久均先生、東京医科歯科大学の荒井裕国先生、長崎大学の江石清行先生、和歌山日赤の青田正樹先生らに感謝申し上げます。開発の歴史のページもご参照ください。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症は単なる弁の病気ではなく左室そのものが壊れた結果、虚血性心筋症性となり、左室の中心とも言える僧帽弁が逆流します。
拡張型心筋症などに合併する機能性僧帽弁閉鎖不全症も同様です。
そのため治療ポリシーも左室を治すことが弁を治すことにつながり、長期生存を促すと考えて手術しています。
そこで左室形成の適応があればこれを行い、その適応がなければトランスロケーション法による僧帽弁形成術を行うようにしています。
実際、以前から単に弁だけを治したのでは長く生きられないというデータがアメリカやヨーロッパから報告されています。
その最たるものは虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁置換術を行う方法で、予後が良くないことが知られています。
やはり原因療法つまりできるだけ左室を治すことが大切です。
現在、この病気で僧帽弁後尖のテント化が難題として残っており、この腱索転位術(トランスロケーション法)またはその応用法でも十分解決できないケースがあります。
そこで私たちは開発者の経験と責任の両方の意味で、より完成度の高い方法を行っています。
「両弁尖適正術」 (Bileaflet Optimization) と呼んでいる僧帽弁形成術で、すでに30名以上の患者さんに行い、全員で成果が上がりつつあり、
2011年のアメリカ胸部外科学会の僧帽弁ミーティング(Mitral Conclave 2011)や2012年のヨーロッパ心臓胸部外科学会EACTS、さらに2013年のMitral Conclave 2013で発表し、関心を集めました。
識者のお勧めにて現在は「乳頭筋最適化手術 Papillary Heads Optimization (PHO)」と呼んでいます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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