1998年
2002年
2003 年
2005 年
2007年
2008年
2009年
2012年
Papillary muscle relocation in conjunction with valve annuloplasty improve repair results in severe ischemic mitral regurgitation.
J Thorac Cardiovasc Surg. 2012;143:1352-5.
乳頭筋を単に前方吊り上げするだけでなく、後尖ヘッドを前尖ヘッドに連結することで、後尖のテザリングをさらに確実に改善できるように工夫しました。米田グループ(当時は名古屋ハートセンター)乳頭筋前方吊り上げの第四報で、トップジャーナルに掲載され、術式として一応の完成を見ました。
2014年
2017年
2018年
Komeda M, Uchiyama H, Fujiwara S, Ujiie T. “Frozen Apex” Repair of a Dilated Cardiomyopathy. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2018 Winter;30:406-411.
新しい低侵襲左室形成術の論文です。これと上記PHO(乳頭筋前方吊り上げ)の併用でこれまで弁形成できなかったような重症機能性僧帽弁閉鎖不全症にも弁形成ができるようになりました。JTCVSのSeminar誌の表紙を飾りました。
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***** 解説 *****
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◾️虚血性僧帽弁閉鎖不全症への僧帽弁形成術、苦難の歴史
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僧帽弁閉鎖不全症の中でも虚血性僧帽弁閉鎖不全症は最も形成が難しく予後が悪いといわれています。
20年前、米国ハーバード大学のCohn(コーン)教授らが、
この病気の場合は弁形成(患者さんご自身の弁を修復して活用します)でも弁置換(人工弁で取り替えます)でも成績に差がない、
つまりどちらも成績が悪いということを発表されたとき、専門家はこれではいけない、何とかしようと思ったものです。
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それはこの病気の場合、心筋梗塞やカテーテル治療(PCI)の繰り返し等によって左心室が壊れて弱くなっているからです。
つまり普通の弁膜症より心臓のパワーが明らかに落ちており、患者さんの体力も低下しているからです。
またこの病気の場合に弁のどこがどう悪くなっているか、これまで解明されていなかったためもあります。
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◾️まず積極的弁輪形成術(MAP エム・エー・ピー)
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そのため当初は弁輪形成術とくに小さいリングを取り付けるBolling先生(シカゴ大学)の方法がつかわれました(上記)。
図は弁輪形成による逆流の制御を示します(我が恩師 Brian Buxton先生の教科書 Ischemic Heart Disease Surgical Managementから引用)。
徐々に虚血側をよりしっかりと締めるようになっていきました。図はその方法です。
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◾️MAPの限界を打ち破る僧帽弁形成術へ
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しかしその後、弁が強く「テント化」(左心室側に牽引される)するケースではこれまでの弁輪形成術に代表される僧帽弁形成術の長期成績が悪い、弁逆流の再発が多いということが判明しました。
これは数年前にイタリアの畏友Calafiore先生(現在サウジアラビアでご活躍中)が発表され、それをもとにしてさらに弁形成の改良が世界のあちこちで行われました。
前後乳頭筋を太い糸で寄せる「スリング法」(上記)、そして乳頭筋同士をくっつける乳頭筋接合術、さらに乳頭筋を弁輪向けて吊り上げるKron先生らの「リロケーション法」(上記)などが発表され、目を見張る進歩がありました。
このように虚血性僧帽弁閉鎖不全症は難病として昔からよく知られ、これまでにいくつもの方法が欧米を中心に発表されて来ましたが、
私たちはこうした重症例でも必要に応じて左室形成手術を併用して左室そのものを治したり、
二次腱索を吊り上げることで再建する術式(腱索転位術、腱索トランスロケーション法 chordal translocation)(上記2007年の論文)を世界に先駆けて考案発表し、テント化を解決しつつ左室を守り、
ほとんどのケースで弁形成術に成功しています (事例5)。
それをさらに改良し、乳頭筋最適化手術(Optimization)として、よりしっかりと弁を治すだけでなく、左室をなるべくパワーアップするように心がけています(上記2012年の論文)。
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◾️治療、これからの流れ
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虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術は心臓外科領域で残された大きなフロンティアの一つであり、かつ循環器内科の先生方や開業医の先生方と力を合わせて克服すべき大きな領域です。
近い将来、患者さんのためにより大きな技術が確立されるでしょう。
近年、カテーテルによるMクリップが進歩をとげ、僧帽弁閉鎖不全症が強くて心機能がそう悪くないケースなどでは効果があることがCOAPT試験という大規模臨床試験にて示されました。今後はこうしたカテーテル治療が軽症例などで活躍するかも知れません。→→もっと見る
虚血性僧帽弁閉鎖不全症ではあまり大きな心筋梗塞のあとなどは心臓のパワー自体が少なすぎるため、補助循環(ある種の人工心臓)や心移植をはじめとした対策も今後さらに必要となるでしょう。
それと左心室の変形が強すぎて弁形成が安定しにくそうなときや、全身状態が悪く、とにかく手術を早く終えねばならないときなどには、あえて僧帽弁置換術を行うこともあります。これは安全のための緊急避難と位置付けています。
やはり僧帽弁形成術のほうが、自然で心臓のパワーアップが効きやすく、理想に近いため、私たちは内外のさまざまなデータを駆使し、知恵を集めてこの病気にたいする弁形成の完成に取り組んでいます。
さらに2014年から低侵襲、高効率の左室形成術である“Frozen Apex SVR”(心尖部凍結型左室形成術)を考案し、ごく短時間でできるため上記乳頭筋吊り上げと併用しても患者さんの体に負担になりにくく、成果が上がっています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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