2) 冠動脈バイパス手術とは?―効果的な方法です【2020年最新版】

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CABG最終更新日 2020年3月10日

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◾️冠動脈バイパス手術とは?

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狭心症(胸や腕の内側などが締め付けるように痛みます)の患者さんに対して行われる手術で、冠動脈バイパス手術、ACバイパス手術、CABGとも呼ばれます。

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これは胸の中にある内胸動脈(ないきょうどうみゃく)やお腹の上端内側にある胃大網動脈(いたいもうどうみゃく)という動脈、あるいは腕にあるとう骨動脈や下肢にある静脈をもちいます。

これらを組み合わせて心臓に血液(酸素や栄養を含みます)を送る冠状動脈にバイパスを作り、心臓に血液を送る手術です。

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天皇陛下sankeiビル・クリントン元アメリカ合衆国大統領も2004年にこの冠動脈バイパス手術を受け、元気に復帰しています。
2012年に天皇陛下がこの手術を受けられたことは皆さんご存知のとおりです。
天皇陛下もお元気に仕事復帰され、その後上皇になられてからもお元気です。

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◾️冠動脈バイパス手術の特長は?

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循環器内科のカテーテル治療が進化し薬剤溶出性ステント(略称DES)という優れた治療法が使える現在も、冠動脈バイパス手術の利点はたくさんあります。

一言でいえば治療効果が長持ちし、普通の生活に戻れるということです。カテーテル治療では必ずしもそうはいきません。(心臓手術事例:PCI後、急性心筋梗塞後の冠動脈バイパス手術

有名なSyntax(シンタックス)研究でもたった4年の検討で冠動脈バイパス手術の患者さんはステントの患者さんより長生きできることが示されています。

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◾️オフポンプ冠動脈バイパス手術 (略称 OPCAB)

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A301_089冠動脈バイパス手術はこの20年ほどの間に大半が体外循環(人工心肺)を使わない
オフポンプバイパス(OPCABオプキャブ)手術

に進化し、安全性がさらに向上しました。(手術事例 オフポンプバイパス手術)。

体外循環(人工心肺)を使わないため、脳梗塞や出血・輸血などが防ぎやすいという利点があるのです。

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◾️冠動脈バイパス手術での動脈グラフトの有用性

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冠動脈バイパス手術にもちいる内胸動脈グラフトはとくに動脈硬化になりにくいため、糖尿病慢性腎不全・血液透析の患者さんの予後を改善するのに役立つことが知られています。

私たちの経験でもたとえば10年以上の血液透析で冠動脈がガチガチに硬化・石灰化していても内胸動脈は柔らかい良い状態であることが確認できています。

(手術事例:現在典型的なオフポンプバイパス手術)

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またこどものころ川崎病を患われた患者さんや冠動脈の生まれつきの病気に見られるような冠動脈瘤などが合併した場合でも冠動脈バイパス術と瘤閉鎖を組み合わせて安全な治療ができるようにしています。

(手術事例 冠動脈瘤)

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Csts058-sメモ: 優れたステントの出現で循環器治療の世界も変化が見られます。

これまでの内科・外科という縦割りではなく、冠動脈科、心不全科、弁膜症科、大動脈科などの臓器別・疾患別の体制ができつつあります。
もちろんそのどれか一つしか治せないチームでは複合した病気に対応できませんから、それぞれへの対応を考えたチーム作りを進めることが大切です。

しかしどの場合でも内科と外科さらに開業医の先生方との協力は重要で意義が深いものです。団体スポーツと似ていますね。

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◾️冠動脈バイパス手術の安全性について

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図 CABG-GEA私たちの手術死亡率は1%を大きく下回ります。

さまざまな工夫を重ね、冠動脈バイパス手術では死亡率ほぼゼロなのです。90歳前後の高齢の方や、いろんな病気、たとえば

慢性腎不全・血液透析
慢性閉そく性肺疾患COPDなどの肺の病気 あるいは
カテーテル治療(PCI)不成功例や再狭窄例
脳卒中
がん

などを持った重症の方、危険な状態で緊急手術を必要とする方や再手術の方も含めて、医学的に手術が必要な方には逃げることなく、どしどし冠動脈バイパス手術(CABG)を行っています。

こうした重症の患者さんを含めても低い死亡率を達成できています。

Family02ただ以前のように7年間死亡ゼロなどという状況から少し変化があり、前任地の京大病院で最後の1-2年で助けられなかった患者さんがあったのは、再生医療しか手がない患者さん(以前から心臓以外の重い病気がありました)や再生医療のため来院され、その再生医療さえ適応にならなかった重症患者さんでした。

その後はこうした特殊な患者さんはうんと侵襲(体への負担のこと)の低い冠動脈バイパス手術や別の治療法を検討して死亡率ゼロを維持するようにしています。

こうした中でオフポンプ冠動脈バイパス手術つまり体外循環を使わない方法は大変役立っています。

重症や高齢の患者さんほど体外循環の害を避ける意味が大きいからです。

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◾️慢性腎不全・血液透析の患者さんへの冠動脈バイパス手術

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A313_123上記のように重症患者さん、とくに慢性腎不全で慢性血液透析を受けている患者さんでも冠動脈バイパス手術CABGの安全性は維持できています。大動脈その他の血管が傷んでいることが多いため、オフポンプ冠動脈バイパスが威力を発揮します。

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手術事例: 透析歴30年の患者さんの手術経験もあり、冠動脈は石灰化でカチカチになっていましたが、内胸動脈グラフトはきれいで、それを工夫して吻合(縫い付ける)し成功しました(写真左)。

その血液透析の患者さんの術中高速エコー所見です。冠動脈(下半分)は石灰化のために光っていますが、内胸動脈グラフト(上半分)はきれいです術中高速エコーで吻合部を見ますと(写真左下)

石灰化で輝度の高い冠動脈と比較的正常の内胸動脈が映っていました。

内胸動脈の出すホルモン(プロスタグランジンやNOなど)が、冠動脈を守る作用があると推論されています。

 

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◾️冠動脈バイパス手術の低い死亡率の原因は

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1. 熟練したプロフェッショナルチーム(ハートチーム)による手術、

2. 人工心肺(人工の心臓と肺で普通の心臓手術で はこれを使います) を使わない オフポンプバイパス手術の積極的かつ正しい使用(虚血性心疾患・手術事例1 オフポンプバイパス手術)、

3.術前、術中、術後の徹底した安全管理。合併症の予防と発生時の早期治療。

などがあげられます。

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またこれらのおかげで、がん患者さんなど他治療や他手術が将来必要な患者さんにも手術が安全にしやすくなりました (手術事例 がん患者さんに対するオフポンプバイパス手術

天皇陛下が2012年2月に、このオフポンプ冠動脈バイパス手術を受けられたのも、その安全性や長期安定性だけでなくさまざまながん治療に悪影響を及ぼさないという意味でカテーテルPCIを上回っていたという見方もあるほどです。

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メモ: ステントとくに新型の薬剤溶出ステントと冠動脈バイ Fotosearch_CCP05015パス手術のすみ分けは、その施設や医師によって温度差があります。

動脈の中ほどの普通の狭窄であればステントを選択する先生がほとんどです。

左冠動脈の根っこに近い部分が複雑にあちこち狭くなっているタイプなどではバイパス手術を有利とする先生が増えます。

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最近の欧米の大規模臨床研究(Syntaxシンタックストライアル)でも、重症冠動脈疾患での冠動脈バイパス手術のカテーテル治療(PCI)に対する優位性が示され、ガイドラインでもバイパス手術が第一選択となりました。

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◆患者さんの想い出1:

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冠動脈バイパス手術は心臓手術の中でもいちばん基本的な土台とも呼べる、大切な手術です。

Aさんは60代の女性ですが、他病院でこのバイパス手術と心房細動に対するメイズ手術を受 Ilm18_ba02031-sけました。しかしそのバイパスグラフトが詰まり、心房細動もぶり返しでしまい、元気になれないため米田正始の外来へ来られました。

自分が手術を受けた病院を去ることには勇気が必要だったと思いますが、Aさんはご家族の協力もあって、勉強し敢然と転院の決断をしたそうです。

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診察しますと、このままでは永く生きられないという判断ができたため手術になりました。バイパスの血管が詰まってしまい、さらに心不全のために僧帽弁閉鎖不全症と三尖弁閉鎖不全症までが高度になっていたからです。

前回の心臓手術からあまり月日が経っていなかったため、心臓と周囲組織との癒着は高度でした。これを丁寧に剥離して行きました。

剥離が無事完了し、体外循環・大動脈遮断下にまず僧帽弁形成術を行いました。メイズ手術は完全メイズ手術にて行いました。リングで三尖弁形成術を行い、最後に右内胸動脈を左前 活気bn1-24d下降枝に吻合しました。前回手術の吻合部を活用して新たにつけました。

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術後経過はさすがに術前心不全の分だけゆっくりでしたが、術後1か月で元気に退院されました。この経過はテレビ局が取材し、昼間の番組のなかで「断らない心臓外科医療」として15分もかけて報道して戴きました。その録画ビデオはこちらをどうぞ

Aさんと外来でお会いするたびに、あの苦しい中をよく決断し来てくれましたね、とねぎらいたくなります。これからは元気な生活を楽しんで下さい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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