最終更新日 2020年2月27日
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◼️大動脈弁閉鎖不全症とは?
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大動脈弁が 拡張期にきちんと閉じることができず、せっかく大動脈に送った血液が左心室に逆戻りする病気です。以下もう少し詳しく解説します。
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大動脈弁閉鎖不全症では血液逆流のため左室に負担がかかり、次第に拡張し大きくなり、その筋肉は伸びきったゴムのように変性し、時間とともに力を落とします。
病気の進行がゆっくりの時には心室がかなり悪くならないと症状が出にくいことがあり、要注意です。
というのは左室が極端に悪化してから心臓手術しても十分には回復しないことがあるからです。
右上図は正常の大動脈弁の開閉を示します。心臓の出口にある弁です。
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◼️大動脈弁閉鎖不全症の原因
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1.弁尖(弁のひらひら部分)が短縮して閉じなくなる: リウマチその他で見られます。また逆流が軽くても存在すれば次第に弁尖が壊れて逆流が増加することもあります。
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2.弁尖が下方に落ち込んでかみ合わなくなる: 心室中隔欠損症VSDの一部や大動脈解離、二尖大動脈弁、その他で見られます
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3.弁尖に穴があいてそこから血液が逆流する: 感染性心内膜炎(IE)のときなどに見られます
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4.上行大動脈や大動脈基部が拡張し、弁尖もそれに牽引されて寸足らずとなり閉じなくなる:マルファン症候群などの結合組織疾患や、二尖弁のときなどによく起こります。
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5.その他
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などが知られています。それぞれ治療法があります。
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◼️大動脈弁閉鎖不全症の症状と診断:
胸痛(胸が痛む、圧迫感や締めつけられる感じ)や
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失神発作(気を失ったりフラーっとします)がでれば突然死などの恐れもあり早く治療することが必要です。
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息切れなどの心不全症状が出現した場合も同様です。
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診断は患者さんの話を聴き、かつ聴診で胸の音を聞けば大半がわかります。
そこへ胸部レントゲンで心臓がある程度以上大きくなっておれば、弁膜症として軽くないということが判明します。
大動脈弁閉鎖不全症の診断は心エコーで確定します。弁の逆流の位置、程度と心臓とくに左心室がどのくらい大きくなっているか、どの程度パワーが落ちているかなどの詳細がわかります。また
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何しろこの大動脈弁閉鎖不全症の場合は上記のように心臓が全身へ向けて送り出した血液のかなりの部分が逆流の形でもどって来ます。
そのためたとえばもとの血圧が120/70なら150/50などのように、上の血圧が上がり、下の血圧が下がります。
処方されたお薬によってはこの数字は変化しますが、
下の血圧が下がるということが心臓へ送る血液量を減らし心臓への負担を倍増させてしまうのです。
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◼️大動脈弁閉鎖不全症の治療
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治療について、弁の状態やお若い年齢その他の状況によっては弁膜症エキスパートの心臓外科医なら弁形成術ができることが多々あります。
弁がひどく壊れている場合は、せっかく形成しても長持ちしないことが多く、多くの病院では 弁置換術となることが多いです。
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この手術の安全性は高く、全国平均でも2%程度のリスクでできます。
成績が良い病院ではその半分以下のリスクで手術できます。
そのため、心臓手術から逃げて、突然死などの形で命を落とすことはあまりにも残念なことです。
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大動脈弁閉鎖不全症の診断を受け、オペが必要と言われた患者さんは、主治医の先生とじっくり相談され、納得いかない場合は、セカンドオピニオンということで他病院の専門家の御意見を戴かれるのがよろしいかと思います。
医師を選ぶのは患者さんの権利ですから遠慮は要りません。
患者さんにとってはご自分の命や人生がかかっているのですから。
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◾️大動脈弁閉鎖不全症、私たちの経験では
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私たちの経験では二尖弁の大動脈弁閉鎖不全症や心室中隔欠損症(VSD)に合併したもの、あるいは大動脈解離や大動脈基部拡張症に随伴するものでは弁が長持ちしやすいため、積極的に弁形成術を行っています。
とくに若い患者さんの場合は生体弁の持ちが劣るため弁形成の特長が光りますので、弁形成がより多くなります。
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さらに自己心膜をもちいた大動脈弁形成術(再建術)がここまでのところ成績はまずまずですが弁形成術には及ばないという印象です。
私たちの経験では最近は弁形成術の成績が向上し、自己心膜再建が減る傾向にさえあります。患者さんに役立つ治療が充実してきていると思います。
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ミックス手術とくにポートアクセス法で小さい創で、骨を一部切るだけで、あるいは全然切らずに手術でき、患者さんの痛みや心の苦痛・負担を軽くするのに役立っています。
これは仕事復帰、社会復帰を早めるのにも有効で喜ばれています。
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◾️いわゆる手遅れと呼ばれるケースでも
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また極端に左心室が大きくなったケースではバチスタ手術(左室形成手術)などを併用して乗り切ったこともあります。現在はこの左室形成術がより安全になりました。
しかしお勧めできるのは、心室があまり悪くなりすぎないうちにゆうゆうとオペで弁を治すことです。
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冒頭に記しましたように、大動脈弁閉鎖不全症ではかなり末期になるまであまり症状がでないケースもあります。
息切れやふらつき・動悸などでおかしいと思えば早めに専門医にご相談下さい。
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参考: 手術ガイドライン ガイドラインは患者さんにもっとも有利な治療をするために役立ちます。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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