最終更新日 2020年2月28日
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◾️心臓再手術はどんな時に?
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弁膜症の場合、何年・何十年という長い間には人工弁やそれを支える土台がだめになることがあります。たとえば人工弁を縫い付けた弁輪がちぎれて弁周囲逆流が発生したときなどですね(事例 三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に)。
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またその逆流のため赤血球が壊れて溶血し、腎 臓 などを壊して行くことも時々あり、このときにも再手術が必要となります(事例:二弁置換の術後20年、、)。
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あるいは人工弁周囲の組織(パンヌスと呼びます)が張り出して人工弁とくに機械弁が動かなくなったり血栓ができて飛ぶ恐れが出ることもあります。
そうしたときに、心臓再手術(再開心術)をしなければならないことがあります。
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右上図左側は機械弁にパンヌス(内膜組織などが異常増殖したもの)ができて一回目の心臓手術から23年目に再手術になった患者さんの写真です。白い矢印がパンヌスを示します。右上図の右側は機械弁を取り外したあと、人工弁の下側にもパンヌスができていたのを示します。いずれもきれいに切除し、新たな機械弁を入れて、弁も患者さんも元気になられました。
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◾️今日的な心臓再手術は
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生体弁(ウシやブタの組織を活かした人工弁)の場合はもとの手術から10‐20年経って、弁が硬くなったり破れたりして作動しなくなることがあります。
その場合もそのままでは危険と判断されれば心臓再手術となります。
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人工弁に感染が起こる人工弁感染性心内膜炎(略称PVE)でもお薬(抗生物質)では治らないため再手術が必要なことが多いです。(事例:僧帽弁の再々々手術)
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あるいは永い間に別の弁などがやられた結果、複数回の手術をやることもあります。
(事例: バイパス術4年後に大動脈弁狭窄症を発生した透析患者さん)
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◾️冠動脈や大動脈の再手術は
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また狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患では、冠動脈バイパス手術のあと、何年もたってバイパスの一部が傷んで閉塞したり新たな病変が発生すれば心臓再手術が必要になることもあります。
あるいは胸部大動脈瘤や大動脈解離の手術のあと、何年も経ってから別の部位が瘤になって手術が必要となることもあります。
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◾️心臓再手術の難易度は?
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心臓再手術は一回目の手術よりも数段難しいことが多いです。
それは心臓と周囲組織が癒着し、そこをはがすために出血が増えたり、長年の病気によって患者さんの状態が悪いため癒着をはがす間に心臓や全身の状態が急に悪化したり、また感染が重症であったりするからです。
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このように心臓の再手術(再開心術)は困難な状況のことが少なくないのですが、患者さんのいのちを守る唯一の方法として、リスクが少々あっても、患者さん・ご家族と医療チームの団結とチームワークで敢然と挑む、誇り高い治療と信じます。
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実際、再手術がどこまでできるかはその心臓手術チームの力量がもっともよくわかる指標のひとつとする考えもあります。
たとえある種の病院が保身のために逃げ、断った場合でも、私たちは自分たちの技術・経験とチームワークで勝てると判断すれば、逃げずに頑張るようにしています。
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そのため私たちのところへは関東東北、近畿九州をはじめ全国から心臓再手術の患者さんが来られます。現在私が執刀する心臓血管手術ぜんたいの3割が再手術と多いのはそのためです。
再手術では胸骨の安全な切開と正しい面での剥離そして心臓の扱いがキーになりますが、恩師デービッド先生の方法(鋭的剥離)で剥離を行うため出血が起こりにくいです。
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◾️ Q:再手術(再開心術)ではどんな問題が?
A: 再手術では一度目の手術のために心臓と周囲の組織が癒着したり変化を起こしている場合も多いです。
それらの癒着を安全確実にはがす必要があります。
癒着をはがした後はにじむタイプの出血(ウージングと呼びます)が起こりやすいため、より丁寧な止血が必要です。
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このため、安全な胸骨再切開と、剥離には電気メスとハーモニックメスをもちいて「乾いた」術野の確保をモットーとしています(事例:二弁置換の術後20年、、、)。
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中でも前回手術で心膜(心臓の周囲にある袋状の膜)を閉じられていない場合は、心臓が直接胸骨に癒着していることがあり、胸骨をのこぎりで切る際に心臓を傷つけない技術が求められます。
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右図のように、心臓や大血管はさまざまな周囲臓器や組織に囲まれているため、そのどれと癒着するかによってさまざまな注意が必要となるわけです。
私たちはトロントのDavid先生の方法で安全に胸骨再切開ができる態勢を確立しています。
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以前に、3回目の手術を希望して来られた連合弁膜症の患者さんは、前回手術のときに右室を胸骨と一緒に(!)大きく切られた経歴がありましたが、この患者さんも無事にトラブルなく手術完了しました(事例ー準備中)。
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◾️心臓再手術、その他の問題点は
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心臓再手術のなかでも前回手術が冠動脈バイパス手術で、その時のバイパスグラフトが開存している場合、そのグラフトを傷つけると危険なことが多いため、注意と経験・技術が必要です 。
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人工弁の再手術では、もとの人工弁をただ切除すると、新しい人工弁の縫い代が不足することもあります。
それらを考慮した切除が必要です。
このことはとくに再々手術など、手術回数が増えるほど大切です。
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しかも心臓再手術の患者さんは長年月の間に心臓に無理がかかったりしている場合が多いため、初回手術の患者さんよりも心臓や他内臓(肝臓や腎臓、その他)が弱っていることも多く、重症の方が多いため、より的確な治療が要求されます。(事例 僧帽弁の再々手術)
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状態の悪い患者さんでは手術を開始してまもなく血圧が低下したり、不安定な状態になることがあります。
一回目の手術であれば直ちに体外循環を開始すれば落ち着きますが、再手術では直ちにそれができないこともあります。
それ用の対策を持つことが必要です。
たとえば胸骨と大動脈やその枝が強く癒着している時などにミックス手術とくにポートアクセス法などを活用すると危険な大出血を未然に防げます。(事例:僧帽弁の再々々手術をミックス法で)
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◾️心臓再手術には熟練外科医が必要
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それらのため心臓再手術(再開心術)は心臓外科医の力量がはっきりと現れる領域です。
豊かな経験と実績のある外科医・チームでは再手術は一回目と大差ないほど安全に行えますが、熟練していないチームでは死亡率が高まります。
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私達は心臓再手術を以前から重要種目の一つとしており、3-4回目の手術でも安定した成績を出しています。
韓国から来られた4回目手術の3弁置換手術の患者さんは当時の学会(2000年)でも発表致しました(左図)。
最初の2回は米国にて受けておられました。
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全国から心臓再手術(再々手術、再再々手術も)の患者さんが来て下さるのは光栄なことです。(註:現在、米田は医誠会病院で手術しています)
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こうした患者さんの中には肝臓や腎臓も弱っていることも多く、それらへの対策が必要ですし、肝臓が弱い場合やうっ血しているときには出血傾向(血が固まらない)があり、出血対策も一段と強化する必要があります。
これらのためもあって心臓再手術は普通の手術よりはリスクが高いのですが、経験がものを言う領域でもあり、全員軽快退院記録を伸ばせるよう全力を尽くしています。
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こうして今後さらに多くの患者さんの救命や楽しい生活の実現にお役に立てれば幸いです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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