bFGF(ビー・エフジーエフ)たんばくの徐放(じわりと効かせる)の方法は
そのためウィルスの運び屋(ベクター)などの危険性あるものを使わずにすむ、
そのため将来がんなどの病気が起こる心配が少ない、
2.下肢以外の体にはbFGFがほとんど行かない
(たとえば血の中のbFGFの濃さは健康人と同じです)
そのため副作用 が起こりにくい、
3.骨髄から細胞を押し出すタイプの薬(G-CSF)も必要ないため、
その副作用も心配ない、などなどの利点があります。
またbFGFは骨髄細胞などの場合よりも太い血管、といっても小動脈ですが、とにかく動脈が創れるため、血液をより多く流せるうえに長持ちしやすいと言うメリットもあります。
血管新生療法のなかでも一番望ましい動脈新生というわけです。
顕微鏡写真でbFGF徐放ではより大きいサイズの血管(動脈)ができることを示しています。
つまりどこも切らずにすみます。
いずれは外来でもできるようになると考えますが、当面は安全のため手術室で下半身の麻酔をして行っています。
現在この方法は高い評価をうけて京大病院探索医療センターの主要プロジェクトとして、2010年9月から京大病院にて臨床治験が行われ、成功裏に終了しました。
メモ1: 骨髄細胞、正確には骨髄単核球細胞は、かつてはそれ自体が新たな血管を造るものと考えられていましたが、その後VEGFという血管を造るたんぱくを分泌することで血管を造ることが判りました。
しかしVEGFは毛細血管しか作れないことがすでに示されており、結局骨髄単核球細胞は動脈を造れないことがわかりました。つまり効果が不十分なのです。
この点でもbFGFへの期待が生まれています。
それはbFGFが血管平滑筋細胞を集める作用があり、その結果、動脈壁を造るのに役立つという特徴があるからです。
■患者さんの想い出: Aさんはまだ20代の若い男性でしたが、バージャー病のため膝から下の動脈がほとんど閉塞し、足指が腐って2本も切断され、さらには足に皮膚潰瘍ができ強烈 な痛みのために立つこともできなくなりました。その結果、仕事も失い、家で失意と苦しみの日々を送っておられました。
ひょんなことから米田正始の外来へ来られ、精密検査の結果、これは治せる、少なくとも良くできる、とbFGF血管新生治療の臨床試験を受けて頂くことになりました。
これがこの治療法の世界第一例目だったのです。といっても何年もかけてさまざまな観点から安全性と効果を検討してきましたので、理論だけでなく実際の安全性と効果にも自信を持っていました。少なくともこれ以上はできない、というレベルに達していました。
再生医学とか血管新生といえば大げさで大変な治療と思われるかも知れませんが、実際には痛み止めをしておいて、筋肉注射するだけなのです。治療は半時間ほどで完了しました。
その結果はすばらしいものでした。日を追うにつれて足の状態は改善して行きました。
最初は足が少し温かくなり、動きが次第に軽くなり、皮膚潰瘍が徐々に小さくなり痛みも軽くなって行きました。退院時にはすでに治療前よりあきらかな改善を見ていましたが、治療後3ヶ月の外来では皮膚潰瘍がすっかり治り、痛みも消え、普通に歩行できるまでに回復されたのです。
その結果、Aさんは仕事復帰され、社会人としての立派な生活を取り戻されたのです。
後で知ったこと(というより忘れていたこと)なのですが、Aさんのお母さんは京大病院に勤務する看護師さんでした。昔、私がごたごたに巻き込まれて京大病院を去るときにも、自分の息子を助けてくれた先生がなぜ去らねばならないのですかと言ってくださったとお聞きしました。こんなにうれしいことはありません。汗と涙が十分に報われた想いです。
Aさん、いつか再会したいものですね。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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