最終更新日 2020年2月28日
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◾️感染性心内膜炎(略称IE、アイ・イー)とは
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この病気は心臓の弁が細菌などでやられる病気です。若い方から高齢者まで少なからず起こり得る弁の病気です。
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原因となる最近は、黄色ブドウ球菌がいちばん多く、ついで緑色連鎖球菌、腸球菌、コアギュラーゼ陰性のブドウ球菌、他の連鎖球菌などがあり、ときたまカビもあります。
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◾️感染性心内膜炎の診断は
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診断は、感染性心内膜炎の原因となる心疾患(下記)があるうえに血液培養がプラスのとき、そして心エコーなどで疣贅(ゆうぜい、ばい菌のかたまりでベジテーションVegetation、略してベジ)があれば確定します。
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心エコーは極めて有用ですが、この病気の場合は経食道エコー(略称経食エコー)がとくに役立ちます。疣贅や弁輪膿瘍つまりうみ、そして人工弁の感染や疣贅がちぎれて飛びそうなときなどに通常のエコー以上の情報を与えます。
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なお感染性心内膜炎では血液培養がプラスにならない ケースもありますし、原因となる心疾患がとくにないということも4分の1から3分の1ぐらいの患者さんで起こります。
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そこで患者さんの全体像から診断をつけることが大切になります。何か特定の検査法を使えば誰でも診断できるというものではなく、そこに経験や洞察力が必要なことがあるのです。
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◾️感染性心内膜炎の元になる病気は
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感染性心内膜炎(IE)は、このようにまったく弁に病気がない人でも起こることはあるものの、何らかの心臓病がもともとあった方に起こりやすいとされています。
たとえば心室中隔欠損症や僧帽弁逸脱症(弁が左房に落ち込みます)・僧帽弁閉鎖不全症 (弁逆流が起こります)が代表的です。
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あるいは大動脈弁二尖弁(通常3つある弁尖が2つになる病気です)や動脈管開存症、大動脈弁閉鎖不全症はじめさまざまな 疾患や状態が遠因になっています。
きっかけは抜歯やけが、なにがしかの感染、日本では少ないですが注射の回し打ちなども含まれます。
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◾️感染性心内膜炎の発生メカニズム
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一般には何らかの血流ジェットがあり、その近くで血流がよどむときに細菌が繁殖しやすいと言われています。
上記の疾患群にはいずれも血流ジェットがあり、その周辺によどみが発生しやすいと考えられています。
(左図はベジテーションの一例をしめします。僧帽弁の表面についています。)
同じ理由で、ジェットが発生しにくい心房中隔欠損症や僧帽弁狭窄症には感染性心内膜炎IEは起こりにくいです。
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また一度、感染性心内膜炎IEになってお薬(抗生物質)で治っても、その原因が残っている場合は、しばしば再発することがEBM( 証拠・根拠に基づく医学)で知られています。
より注意が必要です。
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◾️感染性心内膜炎の予防や早期発見に
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上記の心疾患をお持ちの患者さんにおかれましては、もし高い発熱や、そう高くなくても3日以上続く発熱があれば医師にご相談されるのをお勧めします。
とくに抜歯やけがの後であれば一層の注意が望まれます。最近カテーテルを受けたという既往なども要注意です。
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実際、感染性心内膜炎の患者さんは循環器内科だけでなく、一般内科や総合内科からもよく紹介されて来ます。原因不明熱として、膠原病その他と紛らわしいことがあるのです。
発熱の原因がわからないときには心臓とくに弁膜症の専門家にもご相談されるのが安全です。やはりチームをつくって、総合的・多角的なちからで医療をやるのが良い、ひとつの見本のような病気ですね。
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◾️Q: 感染性心内膜炎はどう怖いのですか?
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A: 感染性心内膜炎 IEは原因菌によっ ては抗生物質の効きも悪く、菌体のかたまりがちぎれて飛ぶと脳卒中な どの重大な問題に発展するからです。
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僧帽弁や大動脈弁などにばい菌が繁殖し、疣贅となると、もしそれがちぎれたときに脳にも流れて行きやすいからです。脳の血管が疣贅の破片で詰まると、それは脳梗塞になってしまいます。この病気の患者さんのじつに35%が脳血管障害に見舞われるというデータさえあるほどです。
また、感染性心内膜炎を治すためとはいえ、感染のある部位に人工物(弁形成の糸や人工弁など、感染には弱い)を入れな くてはいけないというジレンマもあります。
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◾️どんな時に要注意?
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次の条件をもつ患者さんの予後が悪いと言われています。
たとえば黄色ブドウ球菌の感染や、
心不全が強いとき、
糖尿病があるとき、
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疣贅が飛んで塞栓を起こしたとき、
弁輪膿瘍つまりうみがたまるとき、
疣贅が大きいとき、
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女性患者さん、
心臓手術に不利な状態のとき、
血中アルブミンが低いとき、
菌血症が治らないとき、その他です。
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それ以外にも、感染性動脈瘤ができたり、腎臓がやられたりしますし、膿瘍が他の部位に転移したり、筋肉や骨に異常をきたすことなどもあります。
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◾️それらへの対策は
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そこで全身の状態が悪くなりすぎないうちに、あるいはできるだけ状態を改善しつつ積極的に心臓手術を行うとともに、
菌や感染組織をきれいに取り去り、こわれた弁は なるべく形成し、形成が良くない場合には人工弁を用いて治療します。
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術後もできるだけ原因菌に焦点をあわせた抗生物質で徹底的に感染を解決します。
活動性IEの場合は4-6週間、こうした治療を行います。
これが感染の根絶に必要なのです。
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さらに弁再建手術や左室形成手術のノウハウを活かせば徹底した感染組織の切除が可能となり、殆どのIEの患者さんを救命できます(弁膜症 事例4)。
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僧帽弁や大動脈弁の弁のみならず弁輪(弁の付け根、重要部分)や両弁輪の境界部までが感染で破壊(大動脈基部膿瘍など)されていても、再建が可能で す(左上図)。
このレベルの手術になりますと、弁だけでなく左室の再建の技術や経験が必要となりますので、それらの経験が豊かな医師にご相談されることを勧めます。
私たちは100例以上の左室形成術の経験のなかからベスト治療を行いますのでお役に立てれば幸いです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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