事例 冠動脈バイパス術後、慢性透析の大動脈弁置換術

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患者さんは59歳男性。

約4年前に他院で冠動脈バイパス手術を受け、その後お元気にしておられました。

慢性腎不全・血液透析のため大動脈弁狭窄症(圧較差93mmHg)を発症し、ハートセンターへ来院されました。

高度の左室肥大があり左室壁厚は約16mmでした。

1_2前回手術でつけられた内胸動脈バイパスグラフトも静脈グラフトも開存していました。

そのため胸を開くときにこれらグラフトに傷をつけないよう、

普段以上の細心の注意が必要なケースです。

まず丁寧に胸骨正中切開を行い、癒着を剥離していきます

(写真左)。

2手術前のCTと、これまでの再手術の経験から

およその位置感覚・方向感覚はあるため必要な剥離を完了、

逆に不要な剥離は行わずにすみました。

大動脈弁置換をするために体外循環下に 大動脈遮断する必要がありますが、

遮断部位の近くに前回手術の静脈グラフトがあるため、前もってこのグラフトを剥離し、位置を少し変えました(写真左)。

3_a4_a大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は肥厚・硬化・石灰化が著明でした

(写真左)。

弁と石灰を すべて摘除しました(写真右)。

5_2大動脈そのものが硬くなり大きな弁は入らない状況だったため、高性能な機械弁を入れました。

これにより十分なサイズと性能が確保できました

(写真左)。

70分で大動脈遮断を解除し、スムースに体外循環を離脱しました。

術後経過は順調で、翌朝には透析を再開し一般病室へ戻られ、まもなく元気に退院されました。

半年後の心エコーでは大動脈弁圧較差は27mmHgと改善し、左室壁厚は12-13mm と左室肥大もかなりの改善傾向にありました。

術後3年経過した時点でもお元気に暮らしておられます。

 

慢性血液透析は全身の動脈硬化を悪化させる傾向があり、全身の動脈に注意が必要です。

この患者さんの場合は冠動脈は以前のバイパス手術で動脈硬化になりにくい内胸動脈グラフトを持っておられるため冠動脈関係は大丈夫でしたが、

大動脈弁が動脈硬化に似た硬化を起こし、大動脈弁狭窄症を発生し、手術に至りました。

 

近年はこうした透析患者さんの再手術とくにバイパスグラフトが開存した状態の再手術が増えました。

わずかなミスでも命にかかわることがあるため、経験と入念な準備が必要です。

 

この患者さんも心臓外科をもつ病院からのご紹介で、大切な患者さんを病院の垣根を越えて皆で守るというチームワークはこれからますます大切になるものと思います。

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大動脈弁狭窄症

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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