患者さんは 73歳男性。
35年前に僧帽弁形成術を、12年前に僧帽弁置換術を他の病院で受け、
最近心不全と溶血(赤血球が壊れ、貧血になり、かつ腎臓が弱ります)が進むためハートセンターへ来院されました。
地元では手術は危険と言われ、遠方から来られました。
人工弁機能不全と弁周囲逆流の診断で、このままでは体力が弱り、とくに腎不全になる可能性が高いため、手術することになりました。
再手術ですから心臓と周囲の組織との癒着があり得るためCTを撮りました。
そのCTにて胸骨が無名静脈に食い込んでいる所見があったため、
慎重に剥離を進め無事通過しました。
癒着の安全な剥離は安全な再手術のカギのひとつです。
体外循環・大動脈遮断下に左房を切開しました。左房の拡張は長い病悩期間を反映して高度でした。
前回縫着された機械弁(写真上左)には1cmほど弁輪がスリット状に切れて弁周囲逆流になっていました(写真上右、人工弁切除中の写真ですが裂け目が黒く見えます)。
このように人工弁が一部でもはずれたり、弁が完全作動しなくなると溶血が起こりやすいのです。
僧帽弁輪を温存しつつ人工弁を摘除しました。
左室側に輪状にパンヌスが幅5mmほどで発達し(写真下 左)、機械弁の動きを制約し、人工弁内部の逆流のもとになっていたものと推察しました。
パンヌスを切除し、
十分な強度を保てるよう工夫して生体弁を縫着しました。
念のための逆流試験にて、人工弁・縫着部とも問題ないことを確認しました(写真下)。
術後経過は良好で、翌日には一般病室で心臓リハビリを開始し、
溶血も解消、腎臓も回復し、お元気に退院されました。
これまでは機械弁のため多い目のワーファリン使用が避けられず、鼻血によく悩んだとのことですが、今回はせっかく再手術するのに生体弁にしない手はありません。
そこで生体弁で僧帽弁置換を行いましたので、それからは心房細動用の少な目のワーファリンで行けるようになり、鼻血も起こらなくなり喜ばれました。
このように再手術は必要あって止む無く行うものですが、大きなメリットをもたらすのです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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