メルボルン大学はオーストラリアのビクトリア州メルボルンにある国立大学で、オーストラリアでも屈指の実力と地位を持つ大学である。
心臓外科・心臓血管外科の領域でもメルボルン大学は健闘しており、大学病院としてロイヤルメルボルン病院、王立メルボルンこども病院、オースチン病院その他があり、欧米に比肩する実力を持っている。
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オーストラリアとニュージーランドは心臓外科(Sir Brian Barratt Boyes、写真左)と免疫学(Barnet)等で世界をリードして来た実績がある。
著者が1996年秋から1998年春にかけて留学したメルボルン大学オースチン病院は、オーストラリアで初の心臓血管外科教授である Dr. Brian F. Buxtonが率いる病院であった。
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Buxton先生のライフワークである動脈グラフトを多用した冠動脈バイパス手術を中心に、弁膜症から大動脈まで幅広く手術・治療を展開していた。
著者にとってBuxton先生やDr. MatalanisらとともにConsultant (豪州の正規スタッフ外科医)として臨床や研究に従事できたのは幸いであった。
Buxton先生(写真右)は欧米豪でライセンスを取って活躍した経歴を持つ、国際派の心臓外科医であった。
さりげなく淡々と行う手術の質は高く、スピードが違う。
豪州の制度を活用して、public病院であるオースチン病院とprivate病院であるイップワース病院を駆使して、多数の手術を行い、また経済的にもリッチであった。
インドネシアの富豪が手術のためにオースチンに多数来院され、それも病院を潤わせていたようである。
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ある時、緊急手術でインドネシアの大富豪が飛行機をチャーター来られ、空港の税関に私が通過許可をお願いする電話をしたとき、書類を見るとご婦人確か8名とお子さんたしか30名を乗せているのを知って驚いた。
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メルボルン大学オースチン病院(写真右下)は心臓外科医にとって極めて仕事のしやすい環境で、緊急手術は心臓外科専門のチームが常に短時間で召集できる体制ができている。
緊急手術を行っても予定手術には影響なく実施できる。
麻酔科は心臓麻酔医が担当し、熟練度が極めて高い。
午後7時より遅く開始した緊急手術にはコンサルタント、レジストラ、ナース、MEそれぞれの立場に応じてかなりの手当がつき、皆医療のやりがいと経済的楽しみをもって頑張っている。
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あるとき術前患者が発熱して延期になった。
そのとき、ナースたちのご意見は「先生、別の患者さんを連れて来て!手術しようよー」であった。
それほど彼女らの仕事は評価され、きちんとした待遇が与えられているのである。
あれから15年近く経ったが日本の貧相な環境は国公立病院を中心にほとんど変わらないのは残念である。
ある年のクリスマスの時期に、夜中から緊急手術を行い、明け方に無事完了した。
さあ帰宅 しようかというところへ別の緊急手術患者が来られ、せっかくだからもう一例やってから帰るよと皆に告げると”You are my hero !!”とナースらに言って頂いた。
日本の一部の大学病院なら皆にお詫びしまくってお願い連呼して申し訳なさそうな顔をして手術するところであろうが、豪州では違うのである。
本物の先進国をそこに見た思いがした。院内に置いてある機械類はそれほど変わらない。
そうしたハードよりももっと先進国らしい尊いものがあることをこのとき学んだ。
日本は医療崩壊しないと先進国の姿を学べないのであろうか。
大学病院で言えば、海外の臨床現場を知るものがもっと教授になれば少しは変化するのであろうが、現実はどうであろう。
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メルボルン大学の他病院との交流も盛んで、そのそれぞれから欧米に多数が留学し、メルボルンにいても著者の古巣であるトロントやスタンフォードの話もでき、世界とつながっているという実感が楽しかった。
個人的には1年あまりの間に300例の開心術執刀や指導ができ、その後日本(京都)に帰国したのが悔やまれるほどの日々であった。
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ともあれ、メルボルン大学、オースチン病院は、建物の外見は日本の大学病院より質素だが、内容的には遥かに充実した、先進国の大学病院の名に値する素晴らしい病院であった。
それ以後も多数の医学生や修練医をお世話し、みな多くを学んで帰国してくれているのはうれしいことである。
今年(2009年)も名古屋の学生一人を紹介し、多くを学んで帰国してくれるのを楽しみにしている。
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オースチン病院のような優れたものを日本で構築するとすれば、それは実験研究偏重で公務員制度と労働組合の壁がある国立大学病院の中よりも、ハートセンターのような自由度の高い施設ではないかと思うこのごろである。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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