患者さんは 55歳男性。
そして血圧の3分の2に達する高度な肺高血圧症と動悸(複数の種類の不整脈が出ていました)のためハートセンターへ紹介・来院されました。
よくここまで我慢されましたねと思えるほどの状況でした。
胸骨正中切開ののち心膜を開けますと右心系は著明に拡張していました(写真左)。
見渡す限り右心系(つまり右房と右室)という所見で、長年の右心への負荷を示すものでした。
体外循環・大動脈遮断下に右房を切開(メイズ切開)しました。
心房中隔欠損症 ASDは大きめで、40 x 25 mmのサイズがあり、単心房に近い血行動態でした(写真左)。
これを自己心膜パッチを用いて閉鎖しました(写真右)。
術前に動悸を訴えられていたことと、右房の高度な拡 張があったため、
三尖弁輪―冠静脈洞―IVCを結ぶ峡部を冷凍凝固でアブレーションしました(写真左)。
ここで大動脈遮断を解除し、心拍動を再開しました。
三尖弁は弁輪の拡張が著明でしたが、弁葉にはとくに問題がないため心拍動下にリングをもちいて三尖弁形成術を施行いたしました(写真上右)。
逆流がないことを確認してから右房を縫縮しつつ閉鎖しました。
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エア抜きののち、体外循環を容易に離脱しました。
経食エコーにて心房中隔欠損症ASDでのシャントの消失とTRの消失および良好な心機能を確認しました。
肺動脈圧は血圧の4分の1にまで改善しました。入念な止血ののち、無輸血で手術を終えました。
右房が小さくなり、心膜腔にはかなりの空きスペースができました
(写真左、黒い部分は一時的ペースメーカーのケーブルです)。
術後経過は順調で出血も少なく、血行動態も安定し、翌朝一般病室へ戻られました。
術前からの不整脈のためしばし薬で治療し、軽快ののち退院されました。
心房中隔欠損症ASDは放置すると命にかかわる重症になり得る病気です。
健診などでこの病気を指摘されたら、まよわずまず専門家にご相談下さい。
一部の施設では最近はポートアクセス法(ミックス手術、MICS)にて小さい創での手術が可能となっています。
私たちも少ない苦痛と早い社会復帰を考えて積極的にこの方法をもちいています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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