最終更新日 2020年2月25日
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◾️僧帽弁閉鎖不全症とは?
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僧帽弁越しに血液が逆流する病気で、弁が何らかの理由でうまく閉じなくなるために起こります。右図をご参照ください。
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◾️弁のパーツ(部品)から考えますと、、、
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1.弁尖(弁そのもの)、あるいは
2.弁輪(弁尖の付け根)、
3.腱索(弁尖を支える糸のような組織)、
4.乳頭筋(腱索と左室をつなぐ筋肉、それ自体心臓のパワーアップのカギを握ります)
のいずれもが関与します。
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◾️病気の原因から考えると、、、
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1.加齢性つまり年齢が上がるにしたがって弁組織が弱るタイプ、
2.結合組織の疾患(マルファン症候群など)や
3.炎症性疾患(ベーチェット病その他)にもとづくもの、
4.リウマチ性、
5.感染性心内膜炎(略称IE)、
6.機能性つまり左室そのものがやられるタイプ(心筋梗塞や拡張型心筋症などのため)、
7.その他、
などがあります。
要するに弁のどこかの部分がうまくかみ合わなくなるわけですね。
重症になれば弁のあちこちに不具合が生じることもあります。
僧帽弁閉鎖不全症ではリウマチ性などを別とすれば一般に、弁そのものはガチガチに硬くなったり、極端に分厚くなったりしないため、
かみ合わせさえ治してあげれば逆流は止まり、病気も治ります。
つまり僧帽弁形成術が成り立つ病気です。
この点、弁が硬くなったり肥厚・短縮・石灰化しやすく、弁形成術がやりにくい僧帽弁狭窄症とは治療の上からは違いがあります。
(もっとも私たちはこの病気にさえ最近は積極的に弁形成に取り組んでいますが、これはまだ一般的ではありません。)
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◾️僧帽弁閉鎖不全症が悪化すると、、、
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僧帽弁閉鎖不全症は、その逆流がある限度を超えると、心臓とくに左心室や左心房に大きな負担となります。
というのは逆流血液を左心房が受け止めねばならず、その血液はすぐに左室へ戻ってくるため、逆流した血液量だけ左房にも左室にも負担になるからです。
その結果、僧帽弁閉鎖不全症では心室も心房も拡張するため、弁輪(弁の付け根)も広がり、弁がいっそうかみ合わなくなります。つまり逆流が増え、悪循環に陥るわけです。
「逆流が逆流を呼ぶ」ということわざは、僧帽弁閉鎖不全症の特徴を示すものです。
しかも左心房が大きくなってしまうとその壁がこわれて心内の電気信号が正しく流れなくなります。
そのため、心房細動などの不整脈も発生しやすくなり、血栓ができて脳梗塞などになりやすく、心臓手術しない場合に数年以内に死亡する率が上がります。
また左房がぷるぷると震えて有効に左室を補助できなくなるため、心不全の度合いがいっそう強くなってしまいます。
まさに悪循環が重なっていくのです。
◾️怖い例は、、、
たとえば今、静かにしているとそれほど苦しくないという程度の症状の方でも、強い僧帽弁閉鎖不全症がそのままだと、やがて脳梗塞や肺炎になったり心不全から別の病気を合併すれば変わり果てた状態となる心配があります。
たとえば2012年7月、三笠宮さまが僧帽弁閉鎖不全症のため心不全が悪化し、お薬や点滴などでどうにもならなくなられました。
96歳というご高齢ではありましたが、心臓手術(僧帽弁形成術)を受けて元気に回復されたことは記憶に新しいところです。
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◾️ガイドライン
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そこで体にはっきりと負担がでるほどの僧帽弁閉鎖不全症になると国内外のガイドラインでも手術が勧められているわけです。
面白いのは、権威あるアメリカのガイドラインでは「弁形成ができる病院ならやや早めの無症状のタイミングでも手術が勧められる」と最近明記されたことです。
弁形成ができない病院ではもっと待ちなさいともいえる内容で、ガイドラインで初めて病院での治療の質的な面に言及したわけです。
まもなく日本のガイドライン(日本循環器学会という日本の心臓トップの学会)でも同様の措置が取られました。
それほど弁形成手術は単純なワンパターン手術ではなく、豊富な経験が求められるとも言えましょう。
つまり僧帽弁閉鎖不全症は近くの病院より実績や信頼のある病院での治療が勧められる病気であるわけです。
弁形成術がきれいに仕上がれば、10年後の安定性や予後も良好です。今後、20年30年のデータも増えて行き、僧帽弁形成術への信頼度は増していくでしょう。
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メモ1: 僧帽弁閉鎖不全症では腱索伸展や弁輪拡張など徐々に逆流が増える場合と、腱索断裂など急速に逆流が増える場合があります。
徐々に逆流が増える場合は、患者さんにとって対応や順応する時間が得られるため、かなり高度の逆流になって左心室のちからが相当低下してもあまり症状がでないことがあります。
また患者さんの生活の知恵で、息切れがするとうまく休憩を入れて、ご自身では「症状がほとんどない」と錯覚されることがあります。
それでも左室機能がまだ保たれていればよいのですが、それがひどく低下したケースでは、せっかく手術しても左室機能が完全にはもどらないことがあるのです。
そうした不幸なケースを予防するためにもガイドラインはあるのです。臨床の実力がないひとほどこれを否定するきらいがありますが、それこそ己を知るべきなのです。多くの専門家が集まって衆知を結集して創られたガイドラインを活かしたいものです。
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メモ2: 僧帽弁閉鎖不全症の手術ガイドラインについて
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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