チャレンジャーズライブは2002年に京都府立医科大学の夜久均先生らが中心になり、CCTの世話人やメンバーらをはじめとした中堅の心臓外科医が集まって立ち上げた若手のための心臓手術手技コンテストと勉強・交流のための会である。
著者(米田正始)も当初から応援させて頂いていたが、最近は審査員として参加し全国の若手の熱意に触れ、出身大学や所属にかかわりなく若手と語り勉強する会として楽しいひとときを過ごさせて戴いている。
審査員とは言いながら若い先生方から刺激を戴ける上に、愛知県からは名古屋第一日赤の伊藤先生や名古屋第二日赤の田嶋先生、豊橋ハートセンターの大川先生らも参加されある種の地域勉強会のような雰囲気もある。
この会で参加者(経験年数制限があり若手中心となる)は予選でブタ心臓でオフポンプ冠動脈バイパス手術の吻合をウェットラボ形式で行う。
もちろん数名の審査員の前で。そこでさまざまな視点から点数評価を受け、総合点で優れた人が本選に出場し、そこでその年度の若手心臓外科医日本一を決めるのである。
熱い若手心臓外科医が将来の名医を目指して頑張る姿は実に清々しい。
チャレンジャーズライブの名前が示すように、当初は本選を実際の生きたブタを扱える研究施設で行い、
人間のライブ手術さながらの緊張感の中で審査が行われたが、
最近は予算の制約からウェットラボ形式に移行している。
参加者にとっては予選の段階からバイパス吻合操作の講義を受け、
かなりの時間をかけて練習し、
その間も実戦経験豊富なつわもの外科医数名以上からさまざまな指導や助言を受け、
参加者同士の横断的交流もあり、得難い貴重な経験になっていると思われる。
さらに予選本番では詳細なチェックを数名の心臓外科医から受け、その評価内容やコメントももらえるため、単なるウェットラボよりも遥かに高い教育効果があると考えられる。
こうした昔なら考えられなかった優れた教育機会を可能としたのは多くの方々とくに審査などをして下さる先生方のお陰であり、関係者のひとりとして心から感謝申し上げたい。
参加の若い先生方には結果的に予選を突破したり、本選で善戦とくに優勝すればそれは一生の自信と想い出になるであろう。
それ以上にそこで得た内容や友人関係・人脈は大きな財産になると思われる。
まさにチャレンジャーズライブの名にふさわしい特長である。
誰も口に出しては言わないことだが、実はこの会は欧米の学会や大学での雰囲気に似たものがある。
欧米の学会たとえばAATS(米国胸部外科学会)、STS(臨床胸部外科医会)やEACTS(欧州心臓胸部外科学会)などでは若手を学会全体の財産として育てる努力をしているし、
A大学出身の若手がコネのないB大学の教授と親しくなって個人的に指導を受けたり相談に乗ってもらえるというのは欧米ではよくあることである。
日本では教授は自分のファミリーを守ることに力を使わざるを得ない空気があり、
医局制度は結果的には排他的経済ブロックを思わせるような構造となりがちで、
なかなか欧米のようには行かない現状がある。
著者自身の反省から言えば、自分の弟子を育て守ることが必須であるため、入局は全国どこの大学からも平等に受け入れて平等に扱っても、すでに他医局に入った人にあまり手間暇かけて指導するだけの余裕はなかった。
せいぜい自分のところに教えを乞うてきた人たちを支援し大事にするという程度が限界であった。
大学も欧米の大学では他大学の教授が講義に来たあと、若干名のレジデントと食事などしながら、質問や勉強の会が持てる。
その大学の教授は自分がいると聞きたいことも聞けないだろうと、前向きに席をはずすほどである。
欧米の個人主義Individualismの良さがよくわかるシーンである。
日本では今でも個人主義=利己主義という見方があるのではないだろうか。
そういう低次元のものではなく、組織だけでなく個人が発展するという考えはそろそろこの国の将来のためにも必要かと考える。
おしなべて日本の企業では会社はリッチでも個人は単なるサラリーマンつまり貧乏というのが現実で、これが欧米と比べて著しく異なる点である。
ともあれチャレンジャーズライブが欧米の学会や大学の良さを持っているというのが著者の感想で、この得難い勉強と交流の場がさらに発展することを祈るものである。
侵襲の低いカテーテル治療が治療の中心となるのは世の中の流れである。
その流れをしっかりと活かし、かつ個人も組織も発展するような構造を皆で造っていくことが心臓血管外科にも求められているのではないだろうか。
この意味でもチャレンジャーズライブは有益かも知れない。
2009.11.記
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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