著者が名古屋にて新しいハートセンターを皆でスタートし一年あまりが経過しました。毎日生きがいを感じて患者さんと向き合えることを関係の皆さんに感謝してます。病院の近くに住むのが長年のポリシーなので散髪も名古屋市内の美容院に行くことが多いのですが、かつてお世話になった京都市内の散髪屋さんへも時間が取れるときには行くようにしています。この12月に久しぶりにお邪魔したのですが、いつもの元気な雑談の中に含蓄ある話がまた聞けました。
京都のど真ん中で小さな理髪店を営んでおられるこの御主人は、有名なブログ「 柳居子徒然」の作者でもあります。京都らしいとおもうのはその付き合いの幅広さで、文化・宗教・芸術関係はもとより京都大学などの大学人とも交流があるらしく、著者も昔お世話になったことのある元京大総長の岡本道雄先生の頭も刈っておられたことを知った時には、ブログ内容の奥深さの源の一つを見た思いがしました。(写真は下鴨神社、柳居子さんの写真がなかったもので)
以前、柳居子さんにブログ内容の幅広さや奥行きの秘訣をあつかましく質問すると、いやあーいろんな立派な人たちとの雑談の中で勉強した、いわば耳学問のおかげですわ、とのことでした。確かに散髪屋さんへはさまざまな年齢・職業・立場の方も行かれるし、そこで少なからぬ時間それも定期的に話しできるというのは得難い機会に違いありません。また散髪屋さんという比較的親しみやすく庶民的な空間から遠慮なく本音を言ってくれる方も少なくないのでしょう。
ふとわが身を振り返ると、医師などという一見エリートのような仕事をしているためか(本当は重症の患者さんを元気にするために日夜四苦八苦する肉体頭脳労働者です)、患者さんは遠慮されることが多いです。そのため二歩も三歩もこちらから近づく努力をする必要があるというのは昔から心ある指導者に教えられたことですし、私自身も若手や学生などにそう教えるようにして来ました。まして心臓外科医のように大げさな職業では患者さんも一層「引ける」のではないかと思います。
このHPの冒頭にもお書きしましたように、患者さんから見れば医師にものを言うのはちょっと遠慮してしまうだけでなく、医師よりは庶民的と思われている看護師にさえ気がねすることがあるのです。お掃除のおばさんにならのびのびと物が言えるということを教えられたことがあります。鋭い指摘と今も思います。そのため自分なりにいろいろ工夫してはいるのですが初対面で直ちに何でも言える雰囲気というのは容易ではありません。患者さんから愚痴や身の上相談を持ちかけられたら「ヤッター!ヨーシ」と張り切ってしまう私を周囲の仲間たちはおかしく思っていることでしょう。
その一方で、何でもただで相談に乗ってもらえると心臓手術に関係ないことを延々と質問される方もまれにあります。すでに1時間近く経過し、他の患者さんに待ってもらっているので続きはまた次にしましょうと言っても、はい、そうですね、ところで、、、と延々と質問さを続けられるケースもあります。信頼して戴いているのはうれしいのですが待ってくれている人たちの気持ちを考えると、「うー、つらい、どうしよう」という泣き笑い状態です。現代の医療制度のもとでは患者さんと医師のお互いの歩み寄りや配慮も必要なのかも知れませんね。
柳居子さんと久しぶりに話ししていてそれやこれやを思いました。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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(当院で心臓手術を受けられた患者さん) says
とても楽しくこの記事を読みました。米田先生が本音を聞きたいと思っておられるという姿勢に何より励まされます。患者になれば人生一番のピンチを人様の前にさらけ出さざるを得ない訳ですが、そんな時冷たい機械ではなく血の通う人に傍にいて欲しいと誰しも願います。
事前に信頼関係が築いてあれば本当にラッキーです。米田先生のお人柄なんでしょうか名古屋ハートセンターはいい線行ってると思います。感謝。