お便り20 ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症の患者さん

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患者さんは鹿児島在住の72歳女性。

18年前に僧帽弁置換手術を地元の病院で受けられ、4年前に徐脈(脈が遅くなります)に対してペースメーカーの手術を受けられました。

ところがそのペースメーカーケーブルのために三尖弁閉鎖不全症(つまり弁が逆流します)を合併し、

肝臓がうっ血し肝硬変・肝不全の状態になってしまいました。

 

こうしたペースメーカー三尖弁閉鎖不全症のケースでの三尖弁の形成手術は一般には難しいとされており、

だからと言って三尖弁置換術つまり人工弁に取り換えるのはこの弁の場合は長期の成績が悪いため手術を躊躇する病院が多いです。

それ以上に肝不全があるため、オペを乗り切れるかどうかも不明のため、

近くの立派な病院でも断られ、息子さんがネットを探して米田にメールを送ってこられました。

 

何としても助けたいため、飛行機で来院して戴き、そのまま入院して頂きました。

患者さんご本人とご家族皆さんと相談し、悩んだ末の決断で、

私たちを信頼し命をかけて私たちのところまで来て下さったことをあらためて実感しBara_4感動しました。

 

内臓が衰弱している上に2度目の手術で普通以上の負担となるため、作戦を練りました。

時間をかけて体調を整え、心臓手術に臨みました。

手術法は私たちが開発した新しい三尖弁形成術でうまく行きました。

 

そのあとがさらに課題で、衰弱した肝臓や全身が持ちこたえてくれるかどうか、

みな祈るような気持ちで見守っていましたが、見事に回復してくれました。

その後、なんと畑仕事に復帰するまでに元気になっておられます。

患者さんやご家族が一体となって私たちを信用して下さり、

私たちも患者さんを自分の親のような気持ちで、覚悟を決めて臨んだことが良かったのだろうと思います。

 

退院前にあらためて患者さんがしみじみと御礼を言って下さいましたが、私は思わず私の方こそと御礼を述べてしまいました。

以下はその息子さんが退院後、私に送って下さったメールをもとに、読者に皆さんにも役立つようにと加筆して下さったものです。



*********患者さんの息子さんからのお便り**********

米田先生御侍史

お世話になります。


母の三尖弁形成手術では大変お世話になりました。


本日、退院させて頂き、鹿児島の自宅に18:00頃到着しました。
母は3ヶ月ぶりに自宅に戻り、とても感慨深く感じていたようです。


母は小さい時から心臓を悪くし、それに対してとても我慢強く生きてきましたが、今
回は一度はもう自宅には戻れないと覚悟していたようです。


幸いなことに、先生に心臓手術をお願いすることが出来、家族一同大変幸運であったとし
みじみと話しています。

思えば、本年10月18日に先生に突然ご相談のメールを差し上げたことが始まりでし
た。


その時には、入院していた鹿児島の専門病院から手術は不可能と言われて、本当にできないのか、自宅療養で病気が悪くなる恐怖を抱えながらひっそりと暮らすしか
ないのかと家族で悩んでいたときに、先生のホームページを見つけて勇気づけられ、
最後の頼みとしてご相談したのでした。

 

この体験記を読むことで私たち同様に、勇気づけられる皆さんが一人でも出てこられ
れば幸いです。
簡単にこれまでの経過を記します。

鹿児島在住の母親(72歳)は三尖弁閉鎖不全症による右心不全状態で当時鹿児島の専
門病院に入院しており、今後の治療についてお伺いしたくメールにて相談いたしました。

 

母は、約18年ほど前にリウマチ熱による後遺症で僧帽弁置換術を鹿児島の専門病院で
受け(平成15年頃ペースメーカー装着)、ずっと定期受診してきました。

しかし、ここ1~2年段々と体調が悪くなり、元気がなくなってきていたようですが、

最近になって体に水がたまり、いよいよ日常生活が困難となったため、本年9月1日にその専門病院へ入院しました。


主治医の説明によりますと、入院時、浮腫がひどく、また黄疸も出ていたとのことで
治療をしてきましたが、

三尖弁の閉鎖不全によって全身に、特に肺や肝臓へ水がたまった結果、高度の肝機能異常(総ビリルビン値約8)を来たしているとのことでした。

その後の治療により、浮腫も軽快し尿も一日1500ccほど出るようになり、総ビリルビン値も約4~4.5まで下がって来ました。

ただ主治医によれば、いつまた病態が増悪するか判らないため、この病態から脱するには最終的には三尖弁手術をするしかないとのことでしたが、

肝不全が強く、2度目の手術でもあるため、

当院でのオペは心臓外科の判断で、「術後の肝不全のリスクが高いため、不可能」と言われていたものです。

 

私は母親の今後について、当時の主治医の意見を参考に、家族とも相談してきました
が、

このまま自宅療養で安静に生活することを選択すべきか、

それともあくまでも心臓手術をして弁膜症を治療するべきなのか大変迷っておりました。

 

当時、鹿児島の専門病院の心臓外科より手術のリスクが相当高く(術後の肝不全)、

かえって寿命を縮める可能性があることからオペをしないという決断の勇気も必要で
あると説明を受け、

自宅療養でも何とかこのまま延命できるのではないかと淡い期待をもっていましたが、

米田先生に相談してかなり厳しい状況であることを理解しました。

 

結果として、米田先生の手術を受けることが出来て大変幸運であったと感謝していま
す。

術後は、三尖弁の逆流が改善したばかりか、肝機能もビリルビン値が1.5程度
まで低下し、本当に最良の結果となりました。

 

私たちは幸運にも先生に相談することが出来て、良い結果を得ることが出来ました
が、

一方では心臓手術を受ける機会を得ることなく不幸な転帰を取られる方々も多いので
はないかと思います。


私たちと同様の病気でお困りの皆さんが、この体験記を目にされましたら、是非一度
米田先生にご相談されることを強くお勧めいたします。

 

追伸:母は自宅に戻ってから本当に生きていることを噛み締めているようでした。


私たちも母に辛い手術を勧めたことで本当に良かったのかと悩んでいたことも報われ
た思いです。


母には苦しい思いを2度もさせてしまったこともあり、是非長生きして欲し
いと思います。


これからもよろしくお願いいたします。本当に有難うございました。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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