1月12日の中日新聞によれば、がんの手術の待ち時間が長くなり問題になっています。
以下、中日新聞WEBの記事から抜粋します:「ほぼ半数(の病院)が3つのがん(胃、肺、乳がん)のいずれかで、最近5年間に「延びたと感じている」ことが分かった。現在の手術待ち期間は最長で「3カ月」との回答もあった。病院側は拠点病院への患者集中や外科医、麻酔科医不足を主な理由に挙げている。」理由はともあれ、がんと診断されたのに、手術してもらえずに無為に待たされている患者さんがおられるわけです。
さらに次のような記載がありました。 「がんの進行度にもよるが、医学界では一般的に1カ月未満が望ましいとされる手術待ち期間は、肺がんでは1カ月以上の回答が4割を占めた。岐阜県のある病院は「2~3カ月」と答えたほか、「2カ月」「1・5~2カ月」「1・5カ月」とした病院が、それぞれ1病院ずつあった。 1カ月以上の回答は、乳がんでは45%、胃がんでは37%を占め、どちらも最長は2カ月だった。」つまり手術を待たされている間にがんが増大したり運が悪ければ転移して取り返しがつかなくなる心配さえあるわけです。
この記事を読んで、かつて国立大学病院で勤務していたころの苦労を思い出しました。患者さんは心臓病が悪くなった段階で突然来られることがよくあります。そして同じ時期に何人も来られることがよくあります。そうした時に、手術は(心臓手術も)週何例などと人為的に決められている国立施設では対応が難しくなります。結局、待てる患者さんはうまく時間稼ぎをして何週間とか何カ月後に手術をし、急ぐ人はできるだけ早く、といっても医学的な観点から心臓手術のタイミングを決めるとは限らず、順番待ちタイミングになってしまいます。それでは良くないと考え、まだ待てる患者さんに直接相談しお願いして延期を快諾して戴き、それに代えて待てない患者さんの手術をさせてもらうとか、どうにもならない時は救急車で近くの病院へ転送してそこで手術させて戴くなどもよくやりました。
そこにいる誰もが、「これは良くない、おかしい」とは認識していましたが、次第に「どうにもならない」、「まあ仕方がない」、さらには「ベストタイミングでベスト手術をやりたいなら、そういう態勢のある病院で仕事すれば良い」、などという開き直り議論まで出る始末。国民の血税で支えられている病院という空気はそこでは希薄です。さらに残念だったのは病院のトップレベルの立派な先生からそうした意見が出たことです。
私は内科研修医のころ、自分の受け持ち患者さんにがんが見つかれば、外科の先生にお願いしてできれば来週中に手術をお願いしますと懇願を重ね、いつも苦笑しながら許して頂きました。身勝手でうるさい研修医と自認していましたが、研修医の自分が今この患者さんにできるベストのことはこれしかないと信じて懇願しまくっていたのです。その民間病院の理念のおかげもあったのでしょうが、それを認めてくれた当時の外科や麻酔科の先生方は今振り返れば立派だったと思います。
現代はもっと医療状況は悪いため、がんでも心臓病でもさまざまな工夫が必要であることは理解できます。しかし問題を問題と認識できない、あるいは認識していても知らん顔をするという向きが多すぎるように思います。自分が今仕事している病院では、創立者がこうした問題を打破するという強い信念をもって循環器(心臓血管)専門病院を創った経緯から、無用な手術待ちやたらい回しなどの問題がないのには救われた思いになります。しかし医療崩壊は公的病院のみならず経営努力を続ける民間病院にも影響を及ぼしています。問題を認識し、いつも皆で考えるという当然のことを再確認する必要があると思います。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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(当院で心臓手術を受けられた患者さん) says
一概には言えませんが、このような問題があるという事すら一般人は分からず、何となくの惨敗感が患者の側にはつきまとう訳ですね。先ず事実を知る事がスタートなので、この記事にとても感謝です。