狭心症・虚血性心疾患の治療には
食事や適度な運動療法、お薬から始まってカテーテル治療(PCI)さらに冠動脈バイパス手術とくにオフポンプ冠動脈バイパス手術であります。
冠動脈の重要部分が狭くなり胸の痛みが強く、あるいは痛みはそれほどではなくても心筋梗塞になりそうなときや命の危険があるときなどにはそうした強力な治療を考えます。
日本では手軽なことが受けてPCIが断然多いのですが、
オフポンプ冠動脈バイパス手術にも長所があり、うまく使い分けようというのが識者のご意見です。
前者は創も小さく回復も早いのですが、
この数年間多用されるようになった薬剤溶出性ステントは強力なお薬、抗血小板剤という血栓予防のお薬を使わないと心筋梗塞で突然死するケースがまれにあることが判り、
当初は3カ月間だけとか1年間だけという意見もありましたが、
最近は延々と使うケースが多くなりました。
その場合、がんの手術には支障があり得ますし、
たとえば大腸ファイバーでポリープ(がんの前の状態です)をせっかく見つけても普通のようにファイバーで軽く切除できないケースが多く、学会でも問題になり始めています。
もし出血すれば止めることが難しいからです。
前立腺がんや乳がんその他でも同様です。
つまり薬剤ステントは手軽で便利ですが新たな病気を抱え込むという一面があります。
必ずしも優しくない治療法という一面があるのです。
オフポンプ冠動脈バイパス手術は創は大きいですが、
あまり強力な抗血小板剤を飲まなくても良いですし、
必要なら全然飲まずとも行けますので、スポーツを楽しみたい方や山登りその他怪我をする可能性のある趣味や仕事の患者さんに適した方法です。
最近の欧米の大規模臨床試験(Syntax トライアル)でもしっかり治せる治療法として認識されました。
このSyntaxトライアルの4年後のデータでは、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんより長生きできることが示されました。
また重症糖尿病や慢性腎不全・血液透析などの方にも同様に役立ちます。
この特長はとくに人工の心臓を使わなくて済むオフポンプ冠動脈バイパス手術で際立ちます。
将来的には眼科や耳鼻科のように内科外科が融合した総合循環器科の中で個々の患者さんに最も適したものを選んだり組み合わせたり(ハイブリッド治療と呼び欧米では増えています)することが患者中心医療に役立つと思います。
近年、欧米で提唱されているハートチームですね。
こうすることで初めて的確な使い分けができるのです。
下記の患者さんは循環器内科の世界的権威である先生から、この人にはオフポンプ冠動脈バイパス手術が適切だよとご紹介頂いた患者さんです。
登山をはじめ、さまざまなスポーツを楽しむ、活発な方です。
手術のあと、安心して仕事やスポーツを楽しんでおられる姿をみて、大変うれしく思います。
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米田先生
私は2009年7月6日に名古屋ハートセンターで米田先生にバイパス手術をして頂きました。
一言感謝の言葉を伝えたくメールしました。
12月27日現在までの経過をお伝えします。
3年前にT病院でバイパス手術しか治療方法は無いと告げられてから、何箇所かの病院の診察を受けました。
T病院で「発作が出たら即、死です」と説明されていましたので不安と恐怖ばかりでした。
頭から離れない不安の生活を続け最後に決断できたのは名古屋ハートセンターでした。
お任せしようと決心してからは迷いは全くなくなりました。
7月3日入院
6日手術
21日退院
退院後で一番不安な時期は9月上旬から中旬の間でした。
寝返りするとき、日常生活の動作の中でいたるところに痛みが現れて、経過が良くないのかと心配が続きました。
その度に「手術後2ヶ月間は痛みがありますから」と米田先生に言われたことを思い出し焦る気持ちを抑えていました。
私独自のリハビリですが入院中は大部屋に移動した翌日から二階のフロアーを開院前後に一日一万歩から二万歩を目標に歩きました。
(我が家は二階が生活ベースなので退院する前に階段を練習したかったのですが病院の階段は段差が大きくてリハビリには無理でした。)
退院後は翌日から近くの天白川沿いを毎朝夕、2時間くらい歩きました。
そして初めての通院8月4日の翌日からスポーツジムに通いはじめました。
(ゆっくり、のんびり2時間くらい)
まだ胸を広げる動作は出来ないのでストレッチや下半身の運動から。エアロバイクでビックリ、手術前の負荷95が60でギブアップ。
それでも週に5日は通い続け(現在は負荷も90)生活の行動範囲も広くなっていきました。
(乗り物に乗り、人ごみに出る練習でこの期間は今までになく映画をたくさん観ました)
初めてのハイキング、軽い登山開始は9月26日、岐阜城のある金華山です。
(瞑想の小路を往復)自信を得た私は家族に元気になった姿を見せに上京。たくさんの人が喜んでお祝いをしてくれました。
その後は温泉旅行で元気になれた喜びを感じました。
11月には夫の釣りのお供で伊豆大島まで行き三原山を登山したり大島のなかを4日間歩き回ってきました。
その後、曽爾高原ハイキング、鳩吹山を5時間かけて縦走を何度か繰り返し、そして目標だった鈴鹿の鎌ヶ岳を歩いてきました。
回復した実感を掴み嬉しくてなりません。
そして12月8日に初スキー、12、13日は御岳で滑り、本格的なスキーも北海道で4日間雪の降り続く中で滑ってきました。
去年までの発作が出たらと思う不安は全くなく、スキーは上達しなくても、マイナス7~8度の寒さの中にいる自分が考えられないくらいでした。もう何でもOKです。
この元気な姿を回りに見せられることがとても幸せです。
心配をかけた人への感謝の気持ちを伝えられたらと思っています。
米田先生から紹介して頂いた平光先生は海外スキーも「折角元気になったのだから楽しんできてください」と言ってくれました。
「天にも昇る」そんな気持ちで有頂天になり、早速仲間のオーストリアスキーに参加申込をしました。
来年の1月30日から9日間楽しんできます。
入院中に見舞ってくれた友達には「二度とスキーなんかしたくない」と言っていた時から半年も過ぎないうちに「手術したのは去年だったみたい」と勘違いするほどになりました。
これ程の元気、幸せ、大切な命を贈ってくださった先生に心から感謝いたします。
米田先生の「祇園ホテル」講演(註:米田正始の患者さんの会のことです)にも参加したいと思っています。
私は今回の手術が最高な先生、スタッフ、まわりの人たちの温かい中で行われて今、とても幸せに毎日を送っています。
そしてチョッピリ勇気と頑張った自分を褒めてあげたいと思っています。
皆さん本当にありがとうございました。
まとまらないメールです年内に感謝の気持ちを伝えたくてお便りしました。
2009年12月27日 ****
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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