2010年2月19日 バンクーバー冬季オリンピック

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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多オリンピックでは感動の連続ですく、力を頂いていることを感じます。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピックメダルを獲得しました。ロシアや アメリカの強豪相手に立派というしかありませんが、その内容にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少しのところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、精神力と実力でその後をしっかりとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャンプで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれました。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のときを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。たとえば重い心筋症心不全バチスタ手術セーブ手術などの左室形成術の患者さんなどのケースですね。毎日息苦しい、つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが何度もあります。もちろん患者さんも、話を聴く私も、飽くまで生きることを目指して相談しているわけですが、このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかしこのまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないというのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

昨日の涙は明日の喜びに。かつて助けられなかった病気を助けられる病気に。
するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできるような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、などがあり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイリスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合や高齢者患者さんの場合などでは4回転ジャンプできると予測していたのに着地で失敗ということはあり得ます。今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

オリンピックでぎりぎりのところで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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