【第十号】 バンクーバー冬季オリンピック

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【第十号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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バンクーバーでの冬季オリンピックが佳境に入っています。

皆さん感動したり悔しがったりいろいろと思います。勝者も敗者も美しい、オリンピック

では清々しい気持ちにさせてくれるシーンが多く感動の連続です。

フィギュアスケートでは高橋大輔選手が男子フィギュアでは日本初のオリンピ

ックメダルを獲得しました。強豪相手に立派というしかありませんが、その内容

にも心を打たれました。高橋選手はリスクを承知で4回転ジャンプに挑み、もう少し

のところで残念ながら着地に失敗しました。それでも気落ちせず、その後をしっか

りとまとめ上げ、銅メダルを獲得したのはご存じのとおりです。ここで3回転ジャン

プで堅実にこなすのではなく、金や銀を目指して挑戦した姿勢に私は打たれまし

た。そしてふと次のことを思いました。

心臓手術をやっていて、しっかりした病院でも打つ手なしと言われ、最期のと

きを待つ中で、九死に一生をもとめて来院される患者さんが少なからずおられ

ます。立派な病院で断られたような患者さんは本当に重症です。毎日息苦しい、

つらい生活の中で、死んでも悔いはないから手術して下さいと言われたことが

何度もあります。このままにしておけない、かといって手術のリスクは高い、しかし

このまま薬で様子をみるよりは手術で勝ち目は多い、どうするか、といった状況

です。

そんなとき手術をして亡くなるのは患者さんで、手術をする自分ではないとい

うのが大変つらいです。フィギュアスケートの4回転ジャンプなら、失敗して

痛い思いをするのは本人なので、まだ悔いのない、さわやかな気持ちが残ると

思うのですが、医療では結果が悪いときある種の生き地獄を感じます。しかし

、そうは言っても手術をすれば助かるかも知れない患者さんを重症だからと見

殺しにするのは一層つらい、どこを向いても苦しみしかないわけです。

するとやれることは、成功するかしないかの見極め・予測をより正確にできる

ような方法を開発すること、また成功率を高める工夫をすること、さらに大成

功ではなくてもとりあえず生きることだけでも達成する方法を使うこと、など

があり、それらを内外の多くの仲間の御意見を戴きながら模索して来ました。

バチスタ手術で言えば現在は90%以上は勝てますし、勝ち負けも以前よりは予

測できるようになりました。他の左室形成術も同じです。しかしそれでもハイ

リスクと呼ばれる患者さん、とくにいくつも内臓の病気を持っておられる場合

や高齢者患者さんの場合などでは予測に反して失敗ということはあり得ます。

今後さらに情報量を増やし精度を上げる必要があると感じています。

 

オリンピックで大勝負をかける勇気ある選手たちの姿をみて、そんなことが脳裏

を横切りました。ジャンプで転倒している選手の姿を涙なくしては見れません。

米田正始 拝 (2月19日記)

(このメールマガジンは心臓血管外科情報WEBの中の心臓外科医の日記ブログ

のコーナーから一部抜粋、転載いたしました)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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