患者さんは80歳女性で、
高度の大動脈弁狭窄症(AS、つまり大動脈弁が狭くなります)、
冠動脈3枝病変(心臓へ血を送る血管が詰まっています)、
しかも脳出血後の状態で来院されました。
ここで特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症というのは、略称IHSSとも呼び、
弁の下の筋肉が張り出して血が流れにくい、危険な状態です。
重症では突然死されることさえあります。
肥厚性閉塞性心筋症HOCMと同じ意味でつかわれることもあります。
患者さんは脳出血の後で車いす生活でもあり、私は手術をやや消極的に考えていましたが、
車いすの上で意識が薄れる発作が出現し、
いのちが危険な状態となったため、
患者さんやご家族と相談のうえ、
危険回避のために手術することにしました。
手術は大動脈弁置換術(AVR)、
左室流出路異常心筋切除を行いました。
術後経過も順調で意識が薄れることもなくなり、お元気に退院されました。
その後はお元気に楽しい生活を送っておられます。
手術前、脳出血の後遺症がある中を、生きるために自らじっくり考え、決断し、
手術を受けますと言って下さったときの毅然としたお姿が今も脳裏に焼き付いています。
ある程度の高齢者の患者さんの場合は、
心臓手術のような大きな治療を手控える傾向が患者さんにもご家族にも社会全体に感じます。
とくに公的病院では手間のかかるケースやリスクの高いケースを安全管理委員会の名で断ることがよくあると言います。
しかしこれほどしっかりした患者さんなら、
手術後の充実した人生を有意義に過ごして頂けると思いましたし、
その通りになったように思います。
その患者さんのご家族からお礼のお手紙を戴きました。以下に掲載します。
****************************
謹啓
春寒しだいに緩む頃、益々ご健勝のこととお喜び申しあげます。
さて、このたびは心臓弁膜症の手術に際しまして大変お世話になりました。
今まで足腰以外に悪いところはないものと思っておりましたのに、二月の初めに検査にて、**病院の**先生に「心臓弁膜症です。すぐに手術をしたほうがよろしいですよ。しなければあと数年です。」と突然言われまして、どうしてよいか分からずに、目の前が真っ暗になり、相当ショックを受けました。
八十歳と年齢も高く足腰も悪いのでとても手術なんて無理と思い、また手術に対する恐怖もありまして不安でいっぱいでした。
そのような時にご紹介いただきました。
米田先生の「大丈夫ですよ。元気になれますよ。」と暖かく優しく力強いお言葉に励まされ、急なことで心の準備もできませんでしたが母も手術を決心することができました。
米田先生をはじめ他の先生方のおかげで手術も無事に成功し、命を永らえることができましたことは言葉では言い表せないほど感謝申し上げております。
「先生は命の恩人です。生かしていただいた命を大切にしたい。」と母も心より喜んでおります。今後は療養に努め焦らずゆっくりと元気を取り戻し、楽しい余生を過ごすことができればと思っております。
米田先生、本当にありがとうございました。書面にて失礼ながら今後ともお世話になります。なにとぞ宜しくご指導賜りますようお願い申し上げます。
謹白
平成二十二年三月七日
患者さんからのお便り・メールへもどる
お問い合わせはこちらへ
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。