先週1週間、トロントのトロント総合病院(Toronto General Hospital)で充電して来ました。
かつて、20年近く前に6年間修業させて頂いた病院で、当時のレジデント仲間や指導していた学生が成長して教授や准教授になっており、恩師David先生らも一度遊びにおいでと言ってくれるので共同研究と私自身の生涯研修ということでお邪魔しました。
病院自体がずいぶん拡張や改修され大規模になっていたため最初は道に迷うこともありましたが、それなりに迷路の攻略法を覚え、そこそこ自由に動けるようになりました。
私が修行していたころお世話になった医師、技師、看護師さんたちが多数残っておられたのはうれしい驚きでした。医師は同業ですから学会等でちょくちょく顔を合わす機会があるのですが、看護師さんたちの多くとは本当に20年ぶりでした。しかしそのほとんどの方たちが私の名前を覚えていてくれて、感動してしまいました。あれから20年!と皆時間の経つ速さに驚いていました。あの頃みな若く可愛い看護師さんたちだったのですが、今はみな指導者的な立場となりりっぱなプロで、しかししばらく話しているうちに20年前の雰囲気にもどるのが不思議でした。
病院の職員が長続きするというのは素晴らしいことと思いました。これは待遇や条件もさることながら、世界のトップレベルの医療を提供するチームの一員であるという誇りが大きいと感じました。人間を動かす最後の切り札は誇りや喜びであると浅学ながら信じるものです。
北米の病院は国立大学病院といえども時代の動きに俊敏で、その進歩の速さは日本の民間病院以上です。あらためて感心しました。
たとえばカテーテルベースの生体弁手術(たとえばTAVI・経カテーテル的大動脈弁植込術)のめどが立つと、カテーテルや高性能CTまで装備し た巨大な手術室を造り、すでに実績をあげていましたし、再生医療も大きなセンターができ、多数の研究者や技師さんらを擁して活発に臨床治験を推進するといった具合です。
1週間の滞在中に15例ほどの心臓手術を見学できました。洗練された僧帽弁形成術や、大動脈基部手術、弓部大動脈手術、小切開手術、冠動脈バイパス手術、そして新しいカテーテルによる弁置換手術(TAVI)などでした。その間、雑談を含めたディスカッションというよりおしゃべりの連続で、いくら昔からの友達だらけとは言え、ちょっとはしゃぎすぎたと反省しています。しかしおかげでさまざまな手術や治療の良い点や弱点、欧米の最近の傾向などを具体的に学び確認できました。また日本でのさまざまな努力をお話し、それは使える!とけっこう受けました。このように遠慮なくものが言えて初めて切磋琢磨できるようです。
第二の故郷のようなところですので、病院関係や友人関係などで毎日何らかのパーティを開いていただき、感謝の塊になっていました。皆さまありがとうございます。また日系の永住の友人たちにも同様にして戴き、本当にうれしく思いました。お礼にひとつでも何かお役に立てるよう、健康相談を行いました。最近私が力を入れている科学的ダイエット法(低炭水化物・高脂肪食)が結構受けました。また私のこのホームページの写真ギャラリーを見て下さっている方がありがたいコメントを多数下さいました。
カナダの医療は原則無料つまりすべて税金でまかなわれています。貧富の差なく誰でも医療を受けられるという点では今や日本を超えて世界一の制度と思いますが、それを支える国や病院の努力は大変なものです。こまかい薬や物品の一つ一つにまで規制があり、倹約また倹約です。私が修行中だった20年近く前からこの傾向はあり、たとえばがんの放射線治療を6週間から4週間に削られたり、心臓手術後の予防的抗生物質を術後3日間を1日半に抑えられたり、なかなか大変でしたが、それはいっそう厳しくなっています。
何事も社会全体の英知と協力を通して皆で立派なものを創り支えるという姿勢が大切なのだとあらためて思います。
タイムトンネルのような、夢のようなトロントでの1週間でした。自分がどこから来て、どういう努力をし、どこへ行きたいか、あらためて判ったような気がします。トロントの皆さん、そしてこの出張を支えて下さった名古屋の皆さん、私が帰国するまで待ってくれていた患者さんたち、ありがとうございました。
平成22年6月22日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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(当院で心臓手術を受けられた患者さん) says
トロントでのご修行 おつかれさまでございました。 お懐かしい方々との再会や、進んだ医療技術(弁置換手術など)をご覧になられ、とても充実したお時間をお過ごしのご様子、患者の一人として大変 うれしく拝見しました。
先生の今後益々のご活躍をお祈りいたしております。