お便り26: メイズ手術の患者さん

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患者さんは40代の男性で、

以前に関東の大学病院で、

肺動脈弁狭窄症心房中隔欠損症(ASD)および心房細動への手術(いわゆるメイズ手術)を合計2度にわたって受けられました。

心房細動が難治性で手術でも治らず、

それを治して下さいと希望してハートセンターへはるばる来院されました。

 

このホームページの弁膜症のページなどでも論じていますように、

心房細動は近年、長期死 Hana_16 亡率の高い、予後の悪い疾患であることが認識されるようになりました。

それは心房細動が心房内に血栓を造りやすく、

それが壁から外れて血流に乗って脳に届くと脳梗塞になるからです。

たとえば野球の長嶋さんやサッカーのオシムさんらのように。

 

そこで心房細動の患者さんにはワーファリンという血栓予防のお薬を用いて対処するのですが、

ワーファリンは切れ味の鋭い薬で、

毎月病院へ通って血液検査を受け、薬の量を微調整することが安全上必要という、

患者さんにとって負担の大きい薬でもあります。

しかもワーファリンを飲んでいても、

時に脳梗塞や脳出血なども起こることがあるという困った状態なのです。

 

この患者さんは昔からよく勉強しておられ、

私たちが普通のメイズ手術では治せないような心房細動でも新しい術式や工夫で何とか治していることを知って、

心房細動をぜひ治してほしいと希望して遠方からお越し頂いたわけです。

 

外来で調べますと、上行大動脈が拡張して瘤になっていましたので、それだけでも手術が必要な状態でした。

一般に心房細動単独で手術することはほとんどないのですが、

他の心臓・大動脈の手術が必要ならそれを治すついでに心房細動も治すというのはガイドラインでも認められていることですので、

手術することになりました。

 

3度目の手術のため、いつもどおり丁寧に癒着(心臓と周囲組織が貼りつきます)をはがし、

それから上行大動脈を人工血管で置換し、

強化メイズ手術(心房縮小メイズ手術)を行いました。

術後経過はスムースでまもなくお元気に退院されました。

今回のメイズ手術は威力を発揮し、無事心房細動も正常リズムに戻りました。

 

以下はその患者さんからのお便りです。

特定の病院等の批判になってはいけませんし、

患者さんに迷惑がかかるのは避けたいものですから、

固有名詞は一部省略してあります。

表現は褒めすぎのところも多々あり、私はそれほどのものではありません。

ただ患者さんの苦悩を何とかしようと努力する執念が人一倍強いだけと思います。

 

より強力なメイズ手術もそうした気持ちから生まれたもので、発表して5年ほど経ちますが、

最近は欧米の学会等でも評価され始め、うれしく思っています。

 

 

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私は、4*年前、先天的に心臓に奇形がある未熟児として、東京に生まれました。

 

当時から心臓の権威と言われていた、**大学病院(以下大学病院)で診察を受け5才までの成長を待ち、

昭和44年に1回目の心臓外科手術が行なわれました。

病名は、肺動脈弁狭窄でした。

心房中隔欠損も認められましたが、成長に従って閉じるであろう。と言う判断から放置されました。

 

Carnation_1 その後、母が心臓病で他界し、父が私を育ててくれました。

私は自分のハンディに負けまいと努力を重ね、美大のグラフィックデザイン科から最大手広告代理店に入社し第一線の現場で10年以上働きました。

その後一人息子と言う事情もあり実家に、

戻り鍼灸師と整体師の資格を取得して治療家の道を歩み始めました。

 

しかし長年の無理のせいか、私の心臓はとても悪い状態でした。

ついに平成20年6月私は急性心不全を起こし、大学病院に緊急入院しました。

検査の結果、慢性不脈脈があり、心房中隔欠損は1cm以上開き、

右心房と大動脈は拡大し、左心室は小さくなっていました。

 

経食道エコー検査では、左心耳のくぼみに血栓が見つかり、

血栓が完全に解けないと手術はできないと言うことで、

1年に渡るワァーファリンの治療が始まりました。

 

翌平成21年7月、2回目の胸部大手術が行われました。

目的は、中隔欠損の閉鎖と不整脈根治のためのメイズ手術でした。

東京ではこと心臓において同大学病院が日本一の病院であると、多くの人に信奉され、

実際多くの心臓病患者は同病院に頼るのが現実です。

 

私たち親子も、必ず手術は成功し、治ることを信じていました。

病院側も最大の努力はして頂いたと思います。

当初、手術は成功に見え、チアノーゼもなくなりました。

しかし、不整脈は残りました。

2度のDC(除細動)を行いましたが、治りませんでした。主治医は、私にワァーファリンを飲み続ける事、将来ペースメーカーを入れる事を進めました。

私は、将来を悲観し深く絶望してしまいました。

人はどんな境遇でも生きなければなりません。

しかし、なぜ自分だけがという無念の思いは、多くの心臓病患者に共通するものだと思います。

 

退院後、悩んでいた時、知人から名古屋に心臓外科専門の病院がある事を聞きました。

大学病院でも治らなかった、今の私の病気を本当に治して頂ける先生が居るのだろうかと、私は、藁をもすがる思いで、インターネットを検索していました。

そして、名古屋ハートセンターを見つけたのです。

そのホームページにあった米田正始先生の聡明なお顔を見て、私の胸は、不規則ながら高鳴りました。

先生のメイズ手術における論文や、輝かしい経歴を拝見しながら、

この先生なら私を助けてくれるかもしれないと思い、

父に相談すると早速、連絡する事を、承諾してくれました。

名古屋ハートセンターに電話すると、

担当の看護師さんが、米田先生の外来の日を速やかに決めて頂き、

先生にお会いすることができる事となりました。

私は茨城県に住んでいましたが、

先生に会うためにはどんな距離も厭わないと、名古屋行きを決めていました。

 

同センターの最新のCTなどの検査機器での検査後、初めて米田先生のお話を聞くことになりました。

先生は、私の画像データを見ながら、

一般に行なわれている簡易型メイズ手術と本物のメイズ手術では、その成績に差があると話され、

メイズ手術開発者のアメリカの先生と、この問題について議論されるそうです。

ですから名古屋ハートセンターでは、米田先生が本物のメイズ手術を行う事ができるので、

殆どの確率で心房細動を取る事かできる。とおっしゃっていました。

 

更に、先生は、わたしの拡張した上行大動脈瘤の将来の危険性を指摘され、

人工血管に置換する事を勧められました。

先生はこれらの話を、気さくにごく自然に話され、私は夢でも見ている心境でした。

同時にこの時、私の最後の救世主は、米田先生以外にいないと確信しました。

時期を見て、父との面談も経て、先生は心よく執刀を約束してくれました。

先生は、京都大学教授時代から日本を代表する心臓血管外科の名医として知られていた方で、

私は本当に幸運な患者の一人だと思います。

 

平成22年3月31日、私は三回目にして、

大学病院では治らなかった心房細動を治すための新メイズ術と、

最難関心臓血管外科手術と言われる大動脈瘤置換術を、

名古屋ハートセンターで、米田先生の執刀により受ける事となりました。

 

そして、集中治療室で、目を覚ました時、手術が成功した事を聞かされました。

 
米田先生からお父さんに電話してあげなさい。と言われ電話すると、

父は、嬉しさで号泣していました。

米田先生の優しさと偉大さには、心から感謝しています。

その後度々、先生が回診に来られ、私は順調に回復して行きました。

 

私は、大学病院と、米田先生の新メイズ術にどのような技術的な違いがあるのかわかりません。

しかし、はっきり自らわかる事は、拍動が以前より安定して、自分は助かったという実感につながったと言う事です。

あのままでは、一生薬を飲み続けなければならず、いつ脳梗塞になるかわからない、と言う状態から、

米田先生の手術で、健常者に近い状態にして頂いたという事です。

 

私は、幸運な偶然と皆様のお陰で、先生の手術を受ける事ができました。

しかし、全国の多くの心臓病患者は、先生の様なスーパードクターの存在をもっと知る必要があり、

心臓血管外科などの高度な専門医療おいては、

一般の社会通念では理解できない、技術に差がある現実を知る必要があると思います。

 

開かれた高度な日本の医療の発展と実現のために日々努力される先生方に対し、

我々患者も社会も国も深く理解を示し、敬意を持つ事が大切です。

米田先生も、日々後進のご指導にご尽力されている事と思いますが、

この分野において一人でも多くの経験豊かな先生の様な、名医が育つ事を、一患者として願ってやみません。

 

最後に私の治療のためにご尽力頂いた、米田先生はじめ若き先生方や、

ハートセンターのスタッフの皆様に心より感謝を表し、

私の手記とさせて頂きます。

本当にありがとうございました。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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