事例: 大動脈弁狭窄症に冠動脈病変を合併したご高齢患者さん

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近年は弁膜症患者さんも多種多様な病気をお持ちの方が増え、総合的に治すことがより大切になりました。

患者さんは86歳男性です。 弁膜症と冠動脈疾患のため心不全と心肥大が発生していました

大動脈弁狭窄症と上行大動脈拡張、

そして冠動脈2枝病変のため心不全となり来院されました。

他に心房細動と腎機能障害をお持ちでした。

 

左室駆出率38%(正常は60%台)と心臓の力が落ち、

大動脈弁口面積0.66cm2(正常の5分の1以下)、

圧較差53mmで、左室肥大著明(壁厚13.3-14mm(正常は7-11mm))、

このままでは危険なため手術を行うことにしました。

 

全身麻酔のもとで、まず胸骨を正中切開し、

冠動脈バイパス手術に使う左内胸動脈と左大伏在静脈を採取しました。

 

心臓は拡張が強く、かつ上行大動脈には石灰化病変を多数触れしました。


また上行大動脈は直径が5cmで大動脈弁置換術の際に上行大動脈置換術を行うべき水準ですが、

この患者さんの年齢・体力を考え、置換せず無理なく形成することにしました。

体への負担を減らすため、メイズ手術も含めて敢えて行わないことにしました。

 

冠動脈バイパス術、左内胸動脈を左冠動脈前下降枝につないだとことです 体外循環・心拍動下に左内胸動脈を左冠動脈前下降枝に吻合しました

(写真左、グラフト先端部はわざと盲端にする吻合法です)。

上行大動脈を最も硬化の少ない部位で遮断し、これを横切開しました。

 

弁は3尖(弁の可動部分が3つある正常タイプ)で、

大動脈弁は板のように硬くなり、相互に癒着もして、ほとんど開かない状態になっていました。危険な状態でした。 いずれも肥厚・硬化・石灰化が顕著でした(写真右)。

典型的な動脈硬化性の大動脈弁狭窄症の所見です。

 


弁を切除し、石灰を大動脈弁輪まで摘除しました。

サイズは21mmというこの患者さんには十分な生体弁が入ることがわかりました。

静脈グラフトを右冠動脈の枝につないだところです。 ここで右冠動脈の4PD枝に静脈グラフトを吻合しました

(写真左)。

これ以後、右冠動脈への心筋保護液はこのグラフト越しにも注入することにしました。

ここで再びAVR操作にもどり、ウシ心膜弁21mmを縫着しました(写真右)。 人工弁(生体弁)が入ったところです

大動脈は当て布を用いて2層に閉鎖しました。

この時、長期予後を改善すべく上行大動脈を縫縮し、

直径を小さくするようにしました。

 

最後に静脈グラフトの中枢吻合を行い、

117分で大動脈遮断を解除しました。

 

入念なエア抜きののち、体外循環を離脱しました。離脱は容易でした。

人工弁・バイパスとも出来上がりました。上行大動脈もやや細くなりました。 写真上は完成図を示します。

 

術後経過はおおむね順調で術翌日朝、抜管しその翌日、一般病棟へ戻られました。

その後お元気に歩いて退院されました。

術後のMDCTで冠動脈バイパスは2本とも良好に流れ、

左内胸動脈バイパスは良く流れていましたエコーにて生体弁も良く作動していました。

左室の駆出率は59%まで改善し、

人工弁の圧較差も21mmHgまで良くなっていました。

 

静脈バイパスも良く流れています 高齢でかつ動脈硬化が強い患者さんの場合、

こうした大動脈弁狭窄症冠動脈疾患はしばしば合併します。

 

その結果、突然死を含めた危険な状態が心配になる患者さんが増えました。

 

大動脈狭窄症そのものが、動脈硬化と同様に起こる、いわば弁硬化なのです。

いったんこうした状態で心不全が強くなると手術が必要になります。

動脈硬化が強いときは、脳梗塞などのリスクが上がることがありますが、

うまく工夫してそれらを切り抜けることが大切で、

いったん元気なれば心機能の改善も良好で、

その後の予後(見通し)は良くなります。

 

おまけにジーンと来た後日談があります。それはこちらに。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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