最終更新日 2020年2月27日
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■特徴は
ベントール手術(Bentall手術、ベンタール手術と呼ぶかたもあります)は
大動脈基部拡張症に対する大動脈基部置換手術の標準的手術です。
たとえばマルファン症候群や大動脈二尖弁、あるいは大動脈炎症候群の患者さんなどがこの基部拡張症になりやすいです。
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(2)上行大動脈置換術: 人工血管を使います。この人工血管の中に(1)の人工弁が装着されています
(3)左右冠動脈入口部付け替え:(2)の人工血管に直接縫いつけます
つまり大動脈基部にあるものをすべて人工臓器に代えるわけです。
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これに より大動脈弁閉鎖不全症つまり弁の逆流も、上行大動脈の拡張も、バルサルバ洞の拡張もすべて解決され、
患者さんはそれらの疾患による危険性から解放されるわけです。
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■その位置づけは
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ベントール手術は昔から心臓血管外科領域の中で は大きな手術の代表格のような位置づけにありました。
左図はその組立中、右図はできあがりを示します。
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というのは上記のように操作するところが多く、かつそのどれが不完全でも無視できない合併症が起こり得るからです。
たとえば出血や心臓虚血などが起これば初心者にはやっかいですし、
てきぱきと確実に手術できなければ時間がかかりすぎて危険な事態になりかねません。
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しかしきちんと完遂できれば長期間の安定度や患者さんの生存率は優秀で、
機械弁をもちい たベントール手術の10年間の再手術率は極めて低く、優秀な成績が知られています。
近年、バルサルバ洞を模した人工血管が使えるようになり、この導入でさらに成績が向上する可能性があります。
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またベントール手術が確実にできれば一人前の心臓外科医という空気が心臓外科医の間にもあります。
たとえばアメリカのジョンスホプキンス大学は全米で広く認識された優秀な修練プログラムを持っていますが、
そのプログラムの最終段階の一つとしてベントール手術が確実にできることを示しており、
これが多くの若手心臓外科医を惹きつけていたほどです。
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■どんな人工弁を用いる?自己弁は?
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ベントール手術で使う人工弁は若い患者さんでは機械弁が一般的で、60―65歳以上の患者さんでは生体弁が多いです。
しかし前向きな、高い生活の質をもとめる患者さんが増え、若くても生体弁を選択されるかたが増えつつあります。
将来の再手術を受け容れてでも毎日の自然で安全な生活を選ばれるわけです。
一方、機械弁でもワーファリン(血栓を予防するお薬)が少なくて済む可能性があるタイプの弁を選択される方もあります。
さらに生体弁の場合でも、将来はカテーテル弁(略称TAVI)でメスを使わず再手術ができそうな予想がでています。
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このように大動脈基部再建手術の標準手術としてゆるぎない地位を持つベントール手術ですが、
自己弁が温存できればより自然でしかもワーファ リンなしで理想的です。
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そこでDavid(デービッド)手術(右図)やYacoub(ヤクー)手術が発展して来ました。
なかでも我が恩師が開発した David手術はワーファリン不要で、長持ちしやすい自己弁のため若い患者さんに大きな福音となっています。
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しかし大動脈弁組織の強度の判定が難しいケースでは、
長持ちしないおそれのある自己弁温存手術よりも確実なベントール手術のほうが良いということもあります。
そこでベントール手術は難手術のセーフティネットあるいはバックアップとしても重要な位置づけがあるわけです。
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そうした観点からも、ベントール手術は確実に、比較的短時間でてきぱきと仕上げられる術者とチームの力が大切です。
これによって患者さんの安全が確保しやすくなるわけです。
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■私たちの工夫
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なお私たちのベントール手術では生体弁使用の場合は弁を人工血管に縫い付け、その人工血管を大動脈基部に縫い付けるため、
将来もしもの再手術の場合は単なる大動脈弁置換術で行け、
安全上有利と考えています。
さまざまなくふうを重ねて、ベントール手術やDaivd手術を磨き、
より安心安全な大動脈基部再建手術を目指しています。
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■QアンドA
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質問1:マルファン症候群などの患者さんで大動脈基部が拡張する場合はベントール手術が必要 ですか?
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回答1:大動脈弁そのものが壊れている場合はベントール手術で根治します。
大動脈弁がまだ壊れていなければ、患者さんご自身の弁を温存し、弁の付け根の大動脈をすべて人工血管に代えるデービッド手術が可能です。
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それにより20代ー50代のお若い患者さんに長持ちする、ワーファリン不要の手術ができるわけです。
60代以上の方にも同様の手術をすることはありますが、
このご年齢になると生体弁がかなり長持ちし有利なこともあるため、状態やご希望を勘案して患者さんに有用なほうを選びます。
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質問2:ベントール手術後の合併症があると聞いたことがありますが
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回答2:昔と比べればずいぶんベントール手術の合併症は減りました。
ひとつは完全止血してあとで瘤ができないようにしたこと。
さらに冠動脈入口部の植え込みの際に、
もとの弱い大動脈壁をほとんど残さない方法を用いることで、この部分が将来瘤になることが激減したことなどがあります。
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また冠動脈が狭くならないように位置決めをしっかり行いねじれない工夫をしていることなども見逃せません。
また将来もしもの再手術に備えて安全に再アクセスできる工夫や、
今後はTAVI(タビ)などのカテーテル弁の活用も役に立つでしょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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