火星探査衛星”はやぶさ”快挙の裏話を聴いて

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人工衛星「はやぶさ」が7年の旅を終えて、2010年6月13日、地球に大気圏再突入・帰還した 火星への旅は長いものだったに違いありません
ことはまだ記憶に新しいと思います。ともすれば技術立国ニッポンの将来の技術水準が懸念される昨今、感動をもって大方に受け容れられたものでした。昨日8月28日に、NHK「追跡AtoZ」でその秘密が紹介されました。

60億kmも離れた火星の衛星「イトカワ」に軟着陸し、しかも、7年かけて地球まで「イトカワ」の砂を持ち帰る計画自体がもともと驚きでした。

さすがに多くの困難や問題が待ち構えており、イトカワ着陸時のトラブル、それによる砂サンプル採取の失敗の恐れと燃料漏れ、それによる姿勢制御不能、電源停止による通信途絶と行方不明、予定より長期化したことによるイオンエンジンの故障、それによる地球帰還の困難化、、、予期せぬ問題と多数の二次的三次的トラブルが続いたのは、野心的プロジェクトゆえ理解はできました。

しかしそれに対してJAXAはやぶさチームリーダーの川口淳一郎氏をはじめとする技術者チームの組織的対応・マネジメントは素晴らしく、ありとあらゆる英知を出して問題解決を続けたことが良くわかりました。

雄大なスケールのプロジェクトで幾多の困難が待っていました たとえば通信断絶時に、動かぬ太陽電池がたまたま作動するようになる角度と時期を完全に計算し、1年間はやぶさ からの電波を探索し続ければ、発見できる確率は約60%と、具体的な数値・確率を示して、組織に希望と方向性を与えたことや、

イトカワの砂の採取ができていない可能性が高いとみられていたときに、イトカワの重力と真空の環境を作り出せる装置で実験し、接地後100秒あれば、イトカワの砂が採取できると検証したこと、はやぶさはついに地球へ帰ってきました(図はイメージです)

太陽風を利用した姿勢制御の回復や、壊れたイオン・エンジンの残存部分の組み換えによるエンジン復旧 などに代表されるアイデアの競い合い で危機を乗り越えたことなど、組織力と不屈の科学者・技術者魂の両方を見た思いがします。

  それらの多大な努力の末、ついに地球のそばまで戻ってきたはやぶさから地球の写真を撮り、まもなく消滅するはやぶさに地球を見せてやりたかったと述懐する川口氏にはやぶさへの想い、長年皆で積み上げて来た仕事への熱い想いを感じました。

どこか心を打つシーン。流星のように輝きながら消えて行くはやぶさです。やや右下に見える小さな光ははやぶさが最後の任務として切り離したカプセルです。 最後に、イトカワの砂が入ったカプセルを切り離して大気圏突入を図るはやぶさが美しい星のようになって消えていったシーンは実に感動的でした。かつてスペースシャトルコロンビアが分解して散って行った悲痛な画像を想い出した方もおられたのではないでしょうか。

実は大気圏突入はまだアメリカとロシアしか知らない領域で、日本がこれを一撃でやってのけたことは大きなインパクトがあり、NASAがはやぶさの突入シーンを撮影していたことがこれを物語っていたとのことでした。いわば、太陽系大航海時代に日本の技術ここにあり!と示したシーンでもあったわけです。

技術者魂は医者にも通じるところがあります。心臓がボロボロになった患者さんの心臓手術もはやぶさと同じ努力をすることがあります。先日も心筋梗塞後の心室中隔穿孔つまり大きな心筋梗塞で心室中隔がくさって破裂した80代の患者さんが来られ、それも手術がより難しいタイプの後壁中隔穿孔でした。

重い心臓病では医者が諦めてもダメですし、患者さんが諦めてもダメなのです この心室中隔穿孔の手術は私たちが1980年代から取り組み発表してきたもので、今なお多くの先生方のお知恵を頂きながら改良を加えているものです。とくに後壁の穿孔は昔救命できなかったつらい経験から執念をもって続けてきたライフワークでした。

さまざまな工夫を凝らし、穴も心臓も立て直し、患者さんも危篤状態から回復されました。こうした限界的ケースではあえて完全を狙うより、多少不完全でも着実に生きることを狙う、というより生きるためにそれを狙わざるを得ないと思います。治療を受ける患者さんも、治療をする私たちもどちらもぼろぼろのような感がありましたが、患者さんは見事に期待にこたえてくれました。

昨日のはやぶさの感動秘話を糧として、また明日から患者さんの救命にあたろうと思いました。

2010年8月28日 米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Comments

  1. (当院で心臓手術を受けられた患者さんのご家族) says

    米田先生さま
    「はやぶさ」にはそんな裏話があったんですね。
    宇宙のお仕事も先生のお仕事もチームワークの大切さを感じます。皆の思いが一つになってこそ、大きな感動を得る仕事ができると思います。
    先生も変わらず、毎日患者さんの為に頑張ってらっしゃるのですね。先生のひたむきな姿勢や患者さんへの情熱をまた新たに感じました。
    私も明日から負けないで頑張ります!
    では、先生もお体に気をつけてください。

  2. (当院で心臓手術を受けられた患者さん) says

    「はやぶさ」ニュースは多くの人に感動を与えたようですが、この記事を拝読し思わず涙が出そうになりました。命の帰還の為に日夜黙々と励んでおられる善意の方々が近くのハートセンターにいてくださる事は本当に幸せな事だと思います。有難うございます。