9月5日の夜、テレビで「外科医・須磨久善」が放映されました。
須磨久善先生は昔から敬愛する心臓外科の大先輩であるため、その歩んで来られた道は私にとって初めてのことではありませんでした。
しかしあらためて心に響くものがありました。
胃大網動脈を用いての冠動脈バイパス手術やバチスタ手術を日本で最初に行われたこと、
その後それをさらに発展させられたことなど、
いずれも日本の心臓外科が世界に誇れる立派な業績です。
私自身、バチスタ手術、セーブ手術をはじめとする左室形成術の共同研究でも大変お世話になりました。
しかし私をそれ以上に動かすのは、
医師の進む道、外科医の歩み方を、これまでにない形で示して下さったことにあります。
テレビでもそれがある程度うかがえたのは幸いでした。
須磨先生が医者の新しい生きざまを見せて下さるまでは、
大学で矛盾に耐え我慢を重ねて業績を積み、教授になるのが医者が一番光る道のように思われていました。
もちろん教授には教授ならではの社会貢献や喜びがあるのは私自身の経験でもよく理解できるのですが、
須磨先生が示されたのは多くの大学教授さえ認める外科医の誇り高い姿でした。
それは病気の本態を追求する研究マインドであり、
手術テクニックを突き詰める職人気質でもあり、
それ以上に患者を預かる医師という職業に対する誇りと畏敬の念であったと思われます。
当然の結果として患者中心というスタンスは徹底しておられ、
ひとりの人間が組織の歯車として動くという水準を遥かに超えた、医師人生とはかくあるべしというべき姿でした。
心臓外科という領域の仲間には敬愛すべき方が少なからずおられます。
手術の技量、医療への情熱、患者を助けるための溢れるばかりのエネルギー、タイプはさまざまですが、立派な方が少なからずおられます。
しかしその中で須磨先生が突出しているように思えるのはその哲学や姿勢を含めた全体像でしょうか。
たとえば後輩の良い点を見逃さずに評価してくれるとか、優れたものを見抜けばサポートする、人生いかに生きるべきかという問いへの大きなヒントを持っておられる、などの姿勢・ひととなりですね。
そして困難な中でも何とか解決策を見出す問題解決能力でしょうか。後輩の私が申すのも僭越ですが。
個人的な話で恐縮ですが、数年前、私が京大病院を去るかどうか考えているとき、須磨先生に相談したことがありました。
京大教授の立場でできる社会貢献が多くある、どんな我慢をしてでも大学に留まり、時が来ればまた全力を上げて頑張れ、今は耐えよ、という答えでした。
私は大学教授であることよりも手術で患者を助ける意義のほうが遥かに大切と確信し、
須磨先生のように民間の医療現場で精いっぱい患者さんを救命するのが筋と思っていただけに悩みました。
結局教授よりも手術を選択しましたが、そうしなければ一生後悔したものと思います。
当時、多くのサポーターの方々、たとえば2万5千を超える署名を集めて下さった患者さんたちや激励を下さった医師や医療者の方々、
あるいは立場上公には支援できずとも静かに支えてくれた方々、
家族や生活を守るために私に反対せざるを得なかった人たちにさえ、
今も感謝していますが、
その中でも須磨久善先生のご厚情は今も忘れられないものがあります。
医療崩壊が叫ばれてすでに時間が経ちます。
状況は悪化の方向にあります。
しかし須磨先生が示された外科医の生き方の中に、医療崩壊の解決策が見えると私は思っています。
もちろん仕組みとして改革すべきことは多々ありますし、個人でできることに限界はありますが、
それでも従来のパラダイムにこだわらぬ、医師のなんたるかを理解した須磨先生の生きざまには医療を変えるものがあると思います。
テレビ映画・外科医須磨久善を見てどこか清々しい気持ちになりました。
また力を頂いたような気が致します。
平成22年9月6日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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(当院で心臓手術を受けられた患者さんのご家族) says
こんにちは。先日は長々としたメッセージ、失礼しました。私も5日の放映見ました。知人に湘南ハートセンターでopeした人がいるので、あぁ、あの先生が開いたところだったのかと初めて知りました。私のopeをしてくださったのは30年前ですが、都立H病院のM先生で、子供の時から医者や病院に縁が切れなかった中で最も尊敬できる医師でした。最近患者たちの中には意味の無い医療に対する不満がわだかまっていますが、彼らは尊敬できる医師と出会わなかったのだと思います。
またよけいな書込みで失礼しました。
(当院で心臓手術を受けられた患者さんのご家族) says
米田先生さま
先生が須磨先生を敬愛されるように、私もどこか重なる思いがあります。 好きな仕事に就いて、がむしゃらに頑張った時期が過ぎ、何となく流されているな。と感じていた頃に先生と出会い、私の中に眠っていた情熱が動き出しています。人生も仕事も「感動」を感じられるように日々、努力ですね。挫けそうになりそうな時もありますが、先生のブログを拝見しては勇気や力をもらっています。これからも先生の活躍を応援してます!!