今年の春のある日、イギリスのスコットランドからメールが届きました。
まだ40代のお若い男性で、僧帽弁閉鎖不全症で心臓が拡張し、
不整脈も起こっているようで、
現地イギリスでは僧帽弁置換術(人工弁を植え込む手術)しかないでしょうと言われたそうです。
人工弁になれば若いご年齢ゆえ機械弁になる可能性が高く、
ワーファリンという血栓予防のお薬を一生涯飲まねばならなくなります。
親身なプロ医師がついておればまだしも、普通はなかなか大変なことです。
それをよく勉強されよく理解してメールを送ってこられたわけです。
イギリスは心臓外科の先進国で、多くの心臓外科医が同国で研修を積んで来られましたし、
私もさまざまな形で同国の先生とはご交誼をいただき、
またお世話になって来ました。
そのイギリスで僧帽弁形成術が難しいと言われた患者さんなので、
おもわず力が入ったのを覚えています。
実際お会いしますと頭脳明晰で熱い、しかしきさくな方で、
仕事にも熱心なご様子でしたので、
ぜひとも弁形成を完遂して楽しい健康生活が送れるようにしようと、あらためて決意しました。
患者さんのお父上もよく勉強しておられ、光栄で、ぜひご期待に沿いたく思いました。
また昔お世話になったイギリスに少しでも恩返しできればという気持ちもありました。
僧帽弁閉鎖不全症の手術では僧帽弁の向かって右半分が壊れており、
比較的複雑な形成になりましたが、無事一発で決まり、
手術前に心房細動の不整脈があったため強化メイズ手術を行いました。
念のため心エコーで世界のトップクラスと言われる川崎医大循環器内科(吉田清教授(当時))の先生にもご参加いただき、出来栄えをお褒め戴きました。
その後の経過も順調で、僧帽弁閉鎖不全症つまり逆流も不整脈もすべて治り、まもなく元気にスコットランドへ戻られました。その患者さんからのお便りです。
(2010.9.記 )
追記: あれから3年、弁も心臓も快調で患者さんはお元気にしておられます。毎年フォローアップのため米田正始の外来へきて下さいます。うれしいことです。
***********患者さんからのメール********
米田先生、深谷先生、北村先生、小山先生、看護師の方々
残暑厳しい中如何御過ごしでしょうか。
手術後一ヶ月あまりでこちら(スコットランド)へ戻ってきましたが気温はかなり涼しく、スコットランドの夏は日本の秋のような気候でした。いろいろと忙しくご挨拶と御礼が遅くなってしまいました。
術後の経過は順調で今はほとんど普通に生活しております。顔色も以前よりよくなったとよく言われます。
手術前はどうなることかと不安がよぎり、今までの人生を振り返ったりと何か戦地に赴くような言いようのない思いに捕われていましたが、先生看護士の方々のサポートもあり何の疑問もなく落ち着いて心臓手術を受けることができました。
今は手術を受けて本当に良かったと思っています。深く感謝しています。米田先生に診察していただくことができ、ハートセンターで治療を受けることができたのも幸運でした。日本の医療水準が世界最高であることを身を以て体験しました(いろいろ問題が指摘されてはいますが)。
一昨日こちらの病院で検査(心電図)してもらいましたが何も異常はありませんでした。ただ少し脈が早いようだと医者から言われました(今現在85/分)。血圧は7月28日時点で122/82でした。夜遅く疲れた時などに一瞬動悸を感じることはたまにあります。エコーの検査も受けるはずだったのですが、何故か省略されてしまい、また予約し直すことになりました(おそらく年末かもしれません)。肝心の僧帽弁の状態を確認したかったのですが仕方ありません。多分何の問題もないと思いますが。エコーの検査は念のためで、それが終わったらもう定期的に検診を受ける必要はないだろうということでした。
アスピリンの服用はこちらの医者からもやめていいと言われたのでもう飲んでいません。肌寒いせいもあり、この2、3週間風邪をひいてしまい咳に悩まされましたが、今はほとんど快復しました。
また帰国したときにそちらへ術後の検査へ伺うと思いますが、よろしくお願いします。最後になりましたが、本当にありがとうございました。
患者さんからのお便り・メールへもどる
お問い合わせはこちらへ
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。