心臓腫瘍について―しっかり取って確実に再建すれば多くは治せる 【2022年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

心臓腫瘍という病気はあまり知られていないと思いますが、少数ながら存在し、患者さんにとってはその確実・的確な治療が大切です。
心臓腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、ときに悪性のものもあります。
また良性であっても心臓という場所がら、その一部がちぎれて血流に乗って飛べば脳梗塞などを起こすものもあり油断できません。
ここでは大人の心臓腫瘍で主なものを挙げます。

心臓腫瘍のばあい、悪い細胞をただやっつけるだけでは患者さんが救えないこともあります。しかしそのままではさらに困るものです。的確な作戦と実行が大切です

1. 粘液腫(ねんえきしゅ)

心臓腫瘍で一番多く、3分の1を占めるものです。
とくに左房粘液腫が多いです。
これがちぎれて飛ぶと脳梗塞などの問題が起こるため、速やかにオペすることが必要です。
良性腫瘍ではありますが、不完全に切除すると何年か経って再発することがあり、あくまでも完全切除が手術の原則です。

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1. 粘液腫は腫瘍?それとも?

かつては謎の病気でした

粘液腫は腫瘍について

ご参照ください

2. 粘液腫にたいするミックス手術

比較的お若い患者さんをはじめ、創も痛みも小さいためお役に立ちます

粘液腫にたいするミックス手術について

2. 弾性線維腫

弁に発生しやすく、ちぎれて飛ぶという心配があります

良性腫瘍ではありますが、もしちぎれて飛ぶと右心系なら(右図の紫色のところから肺へ肺塞栓に、左心系なら脳梗塞や腎梗塞その他の梗塞(右図の赤い色の大動脈から脳や腎臓へ)が起こり、危険です。
良性だからといって、油断は禁物なのです。


3. 脂肪腫

厚い脂肪組織のように見えることもあります
脂肪浸潤と呼ばれるものと見極めがつきにくいこともあります。

4. その他の良性腫瘍

横紋筋腫、線維腫、血管腫、房室結節中皮腫、奇形腫などなど

5. 転移性悪性腫瘍

他の臓器のがんが心臓まで転移したものです。
次項の原発性悪性腫瘍の30-40倍と多いです。
肺がんや乳がんの患者さんの10%で同様の転移が見られます。
悪性黒色腫では75%に心臓転移が認められます。
この場合は根治術は不可能ですので、たとえオペする場合でも対症療法としてのそれを考えることになります。

6. 原発性悪性腫瘍

心臓からがんあるいは肉腫(にくしゅ)が発生したものです。
悪性ゆえ治療に際してはさまざまな注意が必要です。
しかしそれでも生きる望みが絶たれたとは限りません。
頑張れる場合もあるのです。
なおこどもの心臓腫瘍では、良性腫瘍で一番多いのは横紋筋腫で40%を占め、ついで線維腫が挙げられます。こどもの粘液腫は悪性あるいは悪性になりやすいため注意が必要です。
それぞれの心臓腫瘍の詳細は別頁にゆずります。

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心臓外科の観点からはできるだけ腫瘍をすべて切除し、再発を防ぐとともに、心機能が損なわれないように確実な再建を行うことが重要と考えます。
とくに悪性度が高く、まだどこにも転移していないという状況のときには完全切除をめざし、そこでできた大きな欠損を確実に再建することが予後を改善し患者さんの寿命を長くするのに役立ちます。
そこでは弁形成術左房形成術、大動脈・肺動脈などの血管形成術、さらに左室形成術などの経験が役に立ちます。
逆に心臓のさまざまな部分が再建できるからこそ、腫瘍を完全に切除できるわけです。

腫瘍がすでに周辺に波及するなどして完全切除できない場合は大きな手術はかえって患者さんの寿命を縮めることがあります。
なのでできるだけ苦痛を減らす、その中でできるだけ寿命を延ばす、人間らしい状態での寿命を延ばすことが大切です。

7. 心膜嚢腫(しんまくのうしゅ)

心臓の周りにある心膜という膜から発生する腫瘍で多くは良性です。
中に水がたまり心臓を圧迫したり、悪性との見極めがつきにくいときなどに手術します。
傷跡が見えにくいMICSで手術することが増え喜ばれています(心膜嚢腫のMICS)。

8. 患者さんの想い出

Aさんは60代男性で、北海道から連絡をして来られました。もとプロ野球チームのスカウトをしておられた元気な方です。
地元の立派な大学病院で心臓悪性腫瘍のためもう手術できない、手が打てないと言われたそうです。そのため2か月以上もそこでじっとしているだけの入院生活を送っておられました。たまりかねたご家族が私のところへ連絡を取って来られたのです。
データを送って頂き、拝見しますと右室に腫瘍が充満し、危険な状態です。このままでは突然死の恐れもあるほどでした。
腫瘍の広がり具合から根治術は難しい状態でしたが、このまま突然死するよりは、まず当面生きられる状態にすることが必要と判断しました。というのは心臓腫瘍の中にはゆっくりと増殖するタイプがあり、腫瘍が全部取れなくても当分はまずまずの状態で暮らせることが経験上、あったからです。
しかし動くこと自体が危険な状態で搬送も難しい状態でしたので、ハートセンターから医師を派遣し、飛行機+空港から救急車で随伴して病院まで来て頂きました。
まもなく心臓手術を行いました。腫瘍は取れる限り取り、取れないところも冷凍凝固などをもちいてできるだけ腫瘍細胞が死ぬか弱るようにしました。とりあえず突然死の恐れは消えました。
顕微鏡検査の結果が出て、悪性リンパ腫という、薬や放射線治療が効く可能性のあるタイプであることが判明しました。薬を使う化学療法や放射線療法は北海道の地元の病院がやって下さることになりました。
まもなく患者さんはお元気になられ退院して北海道へ戻られました。
これから化学療法などで腫瘍をうんと弱め小さくできると期待していましたが、そうするまでに患者さんはがんの全身転移のため地元で亡くなられました。
そうなるとあの何も手が打てずただじっとしていた2か月以上の時間が悔やまれます。すぐに心臓手術し、まもなく薬を使えば当分は元気に暮らせた可能性があったからです。
この教訓から心臓腫瘍の患者さんには、あきらめずに速やかにかつ広く情報を集め、セカンドオピニオンをもらって治療してくれる病院を探ることを一度は御検討頂ければと思うのです。
心臓腫瘍とくに悪性心臓腫瘍のように稀な病気ではその経験が豊富なチームでしかできない治療があるのです。

(後日談:数年前、この記事を読んだ別の心臓腫瘍患者さんの息子さん(奇遇にもプロ野球の選手でした)が連絡を取ってこられました。直ちに来院即入院いただき、2日ほどの間にPETや心カテーテルを含む検査を一気に行い、何と悪性リンパ腫であることが判明しました。すでに腫瘍が広がり手術よりも薬の方が良い形のため、直ちに優れた血液内科医に相談し、化学療法を実施、あれから4年が経ちますが患者さんはお元気で私の外来に通院中です。私は患者さんに一言言いました。あなたは立派な息子さんを持って幸せですね、と。)
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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