大動脈弁はいずれカテーテル弁(略称TAVI)が使えるようになります(右図)。
折り畳んだ生体弁をカテーテルで心臓の中へ入れて、中でポコンと広げる。
それが使えるようになりますと、生体弁が10年しか保たないとしても、10年後にその弁の中に新しい弁をもうひとつポコンと入れれば、また10年以上保てる。
そうすると合計20年保つようになります。
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もとの弁が大きいサイズであれば、小さいサイズがさらにもう一回できるかもしれないなど、そういう研究がこれからされていくと思われます。
ただ、弁膜症というだけでカテーテル弁をすぐやるところまでにはなっていません。
まだどうなるかわからない新しい治療法で、もし何かが起これば大きな悔いが残ります。
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簡単に(と言ったら言い過ぎかもしれませんけど)普通なら手術で確実に治せるのに、変なことをしたために悪い結果になる というのは避けねばなりりません。
カテーテル弁自体はヨーロッパのほうで、1万例以上やっていますので、いずれ遠からず役に立つ形になると思います。
ロサルタン(商品名:ニューロタン、右図)がマルファン症候群の患者さんの大動脈の壁をある程度は守りますので、使える人の場合は使ったほうがいいと思います。
使ったら100%大丈夫とはいきませんが、使っていいものと考えます。
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●質問:大動脈血管置換術・ベントール手術・デービッド手術の術後の仕事について。
制限される業種・職種はあるのでしょうか?
例えば、夜勤勤務(2交替・3交代制)や体力のいる仕事。(看護・介護・配送・工事現場・工場等)
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お答え:夜勤勤務や体力の要る仕事。例えば、介護、配送とか。基本的には術後2、3ヶ月はあまり力仕事をしない方がいいです。
胸骨が完全に治るまでは2、3ヶ月かかります。それ以後は周りの人と雑談できる程度の運動量で仕事されていればいいです。
その程度なら、たいていの仕事はできます。配送や工事現場の仕事などで も。
ただばい菌が入るのは気をつけた方がいいです。
切り傷などは消毒すればよいですが、まずは水道水、きれいな水で洗う。
それだけでも違います(感染性心内膜炎IE予防のため)。
その上 で、なるべく早く手当てを受ける。怪我した場合は、こうした注意が必要です。
感染に関しては、土はものすごく怖いです。怪我をした時に土が付いていればき れいな水でとにかく洗いましょう。
ガーデニングでも同じです。
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たいていの仕事はできるのですが、ひどい脱水には気をつけましょう。
夏の時期な ら、外で仕事やレジャーをすれば、2リットル程度の水をとります。
制限される職種というと、怪我をしやすい仕事、格闘技などです。
ボクサーはワーファリン を使っていたら脳出血で命を落とすことも起こり得ますので生体弁を使います。
普通のデスクワーク、テニスを楽しむ程度ならできます。
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●質問:マルファン症候群のように、多岐に症状が渡る場合の医療側の患者支援体制はどのようなものがありますか?
お答え:いつも全身を見張って狙っていると、何か病気が来ても狙い打ちで落としていけます。
手術なしでいけるのが一番いいのですが。長期間の安全性はかなり高くなり ます。
暮らしに困らない範囲で血圧を下げる。これは大事なことです。
本当はコーディネーターのような形でやるのがいいです。
新しい試みでマルファンクリニック(日本ではマルファン外来)というような形も一部にあり、それも一つの手かと思います。
誰かがとにかくしっかり軸になる役目をやればいい。
心臓血管・目・脊椎・皮膚などいろいろです。
患者さんが自分の判断で、あっちへ行きこっちへ行くのはなかなか大変なことです。
それをするのが心臓血管の専門家が、現時点では一番いいのかなと。
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もちろん、その専門職が出てきてくればそれはもちろんいいと思うのですけど。
私たちは、全身を治さないと患者さんは元気 にならない。
それで、全身のコーディネーターをやったらいいかなと思ってやっています。
特に目とか脊椎ですね。この辺は、昔診てもらったけれど、どうにも ならないと言われて、患者さんはわりとガードのない状態になっている人がいます。
それをこちらから「先生もう一回ちゃんと診て下さい」と頼めば、それなり の対応をしてくれることもあります。
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誰かが軸になる必要があります。それは主治医、大きな手術をした者が、やっぱり一番力が入るのではないかなと思ってやっています。
どういう形でもいいのだと思います。
この病気に対して理解がある、あるいは関心があるようなかかりつけの先生でもいいのですが、誰かが何か しらの医者が全体を束ねる。
それが非常にいいと思います。
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日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月 にもどる
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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